「会議で静まり返ったとき、普通の人は黙る」→ずば抜けて仕事ができる人は、何をする?
「1つに絞るから、いちばん伝わる」
戦略コンサル、シリコンバレーの経営者、MBAホルダーetc、結果を出す人たちは何をやっているのか?
答えは、「伝える内容を1つに絞り込み、1メッセージで伝え、人を動かす」こと。
本連載は、プレゼン、会議、資料作成、面接、フィードバックなど、あらゆるビジネスシーンで一生役立つ「究極にシンプルな伝え方」の技術を解説するものだ。
世界最高峰のビジネススクール、INSEADでMBAを取得し、戦略コンサルのA.T.カーニーで活躍。現在は事業会社のCSO(最高戦略責任者)やCEO特別補佐を歴任しながら、大学教授という立場でも幅広く活躍する杉野幹人氏が語る。新刊『1メッセージ 究極にシンプルな伝え方』の著者でもある。

「会議で静まり返ったとき、普通の人は黙る」→ずば抜けて仕事ができる人は、何をする?Photo: Adobe Stock

「ずば抜けて仕事ができる人」は、会議で何をする?

 私が通ったビジネススクールのINSEADのMBA授業では、生徒一人ひとりに授業への貢献が求められた。

 授業への貢献とは、ざっくり言えば、授業中に教師が提示した論点に対して、自分の考えをシンプルに一言で意見して、議論に参加することだ。クラス中に自分の1メッセージを発することに他ならない。

 しかし、これが簡単ではない。

 授業の内容が難しく、教師が提示した論点に対して、自分の意見がすぐには思いつかない。英語の壁もあり、ますます時間がかかる。なので、なにも手を挙げて1メッセージを発せられない。

 授業への貢献は成績評価に入るので、そのままではよい成績がつくことはないし、なにより、まわりになにも貢献できておらず申し訳ない気持ちでいっぱいになった。私は焦るだけ焦った。

1メッセージ上手のクラスメイトから「デビルズアドボケイト」を学ぶ

 そんなとき、世界中から集まった仕事ができそうなクラスメイトたちを見渡してみると、彼らや彼女らも必ずしも自分の意見をすぐには思いついていないことがわかった。

 しかし、面白かったのは、それでも手を挙げていたこと。そして、ある共通の伝え方を使って、授業での議論に貢献していたのだ。

 それが「デビルズアドボケイト」という伝え方だ。英語だと「play devil’s advocate」などと使う。

 デビルズアドボケイトとは、いまその場で主流となっている意見に対して、あえて対立する意見を提示することだ。

 誰かがAという意見をして、それがその場の主流になっていたとする。それをヒントにして「デビルズアドボケイトだが」と自分から宣言した上で、その対立するものを意見として「Aではなく、Bではないか」と意見し、そう思える理由を添えて伝えるのだ。

 Aを評論して終わるものではなく、あくまでも対立する別のBという意見を提示するものだ。

 たとえば、来年度の方針を議論する会議で、誰かが「来年は、新規顧客の開拓よりも既存顧客の深耕を優先するのはどうだろうか」という意見をし、それがその場の主流になっていたとする。そこで、「デビルズアドボケイトだが」と宣言して、「でも、来年は逆に既存顧客の深耕よりも新規顧客の開拓の方が大事な可能性はないか。その理由としては例えば…」などと意見する。

なぜやるか? 3つの意義があるから

 そうすることの意義は3つある。

 第一に、自分にとっては、自分にオリジナルな意見がなくても意見しやすくなる。ゼロベースで意見を考えるのは難しいが、ある意見に対立するものを考えるのであれば、その意見がヒントになり、自分も意見を考えつきやすい。

 第二に、他の参加メンバーにとっては、みなの前で意見するのは勇気がいるものだが、対立する意見を提示しても大丈夫となれば、その場の心理的安全が高まり、他の参加メンバーたちも自分の意見を言いやすくなる。

 第三に、その場の議論を進行するリーダーやファシリテーターにとっては、対立する意見を二つ比べられることで、それらのよいところと悪いところがわかりやすくなり、その場における議論や結論の納得度を高められる。

会議で「自分で意見が思いつかない」ときはデビルズアドボケイトは一つの手だ

 こうして、デビルズアドボケイトを挟むことで、それがないときよりも、その場の議論が活性化し、前に進む。
自分にオリジナルな意見があるに越したことはないが、すぐに自分の意見を思いつかないときでも、議論に貢献できる。

 私もこの学びから、MBAを修了してコンサルで働いているときなどでも、社内会議などで自分の意見がすぐに出てこないとき、そして、その場の議論が停滞しているときなどには、「デビルズアドボケイトだが…」と宣言して、よく1メッセージを伝えた。

 デビルズアドボケイトを選択肢として持つと、自分のオリジナルな意見が思いつかないときでも、まわりに役立つ1メッセージを伝えることができるのだ。

 会議で自分の意見が持てずに困ったときは、ただ黙るのではなく、デビルズアドケイトをして、まわりに貢献してみてはどうだろうか。

(本原稿は『1メッセージ 究極にシンプルな伝え方』を一部抜粋・加筆したものです)