一方で、不安も感じています。それは、本物のメディアのふりをした「生成AIコンテンツメディア」が大量に出現し、私たちのコンテンツも広告収益も、根こそぎ奪われてしまうのではないかという懸念です。プラットフォームはこれまでユーザーの「データ」を利用してきましたが、これからはメディアの「コンテンツ」を利用しに来るのではないか。その危機感は強いです。
AI要約を見ることによって、ユーザーは元のサイトの記事に飛ばなくても満足してしまう。そうなると、パブリッシャー(メディア)の存在価値が薄れていってしまう恐れがあります。
メディアは連携し
「ハングリー」に生き残る戦略を立てよ
――そのような厳しい状況の中で、われわれメディアは自社のデジタルビジネスの質を上げていくために、どのような意識を持ち、どう行動すべきでしょうか。
まず、報道機関をはじめとするコンテンツメディアは、営利目的だけでなく、社会に情報を提供し、民主主義を守るという非常に重要な社会的役割を背負っていることを再認識すべきです。それが、ジャーナリズムや「第四の権力」と言われるゆえんです。
しかし、その役割を継続するためには、当然ながら安定した収益基盤が不可欠です。サブスクリプション、広告、そしてこれからはIP(知的財産)収入と、収益の柱を多角化していく必要があります。
そして何より重要なのは、もはや「黙っていても広告が来る」時代ではないということです。かつてのマスメディアの時代とは違います。黙っていれば、今は広告費の8割がプラットフォームに流れていく。だからこそ、自らの価値を積極的に主張し、理論武装し、データを提示して、生き残るための戦略を立て、実行しなければなりません。
もし単独で取り組むのが難しいのであれば、私たちのように複数社で連携したり、業界全体で取り組んだりする必要があります。そうしなければ、収益装置として強大な力を持つプラットフォームに、広告収益もIP収益もすべて持って行かれてしまうでしょう。この10年で、彼らの成長力と技術力、そしてハングリー精神の旺盛さは証明されています。私たちメディア側も、もっとハングリーにならなければ太刀打ちできません。
プラットフォームは、クッキーレス化(ウェブサイトがユーザーのブラウジング履歴を追跡するために使用するCookieの利用を制限または廃止する動き)を先延ばしにしている間に、着々と生成AIの技術と構想を固めていたのではないか。私はそう見ています。
これからは、ユーザーのロイヤルティを自ら育てていかなければなりません。ユーザーはいつの時代も、良質なコンテンツを楽しみ、知識の源として求めています。その普遍的な思いに応え続けること。それこそが、メディアがこれからも信頼を築き、生き残っていくための唯一の道だと信じています。
長澤秀行(ながさわ・ひでゆき)
クオリティメディアコンソーシアム事務局長、BI.Garage 特命顧問。1954年生まれ。東京大学卒。77年電通入社、新聞局デジタル企画部長を経て、2004年インタラクティブコミュニケーション局長、06年サイバー・コミュニケーションズ代表取締役社長、13年電通デジタルビジネス局局長、14年一般社団法人日本インタラクティブ広告協会常務理事。17年よりデジタルガレージ顧問、20年同社グループのBI.GARAGE取締役に就任。共著に『メディアの苦悩28人の証言』(光文社)