ガソリン業界と政治の強いつながりが
結果的に正常な競争環境を歪めている

 ガソリン価格問題における本質は何か。それは、税金だけでなく、ガソリン価格の不透明さが公正な競争をゆがめ、小売価格を高止まりさせていることにある。

 補助金を続けている日本とイギリスの最大の違いは、イギリスは減税と同時に公正で透明な価格システムの構築によって競争を促すシステム(ポンプウォッチ)を構築したことだ。

 このシステムはドイツで始まった。ガソリンスタンドは、価格変更時には30分以内にドイツ連邦カルテル庁の燃料市場監視室(MTS-K)に価格を報告することが義務付けられている。MTS-Kは約1万5000のガソリンスタンドから価格を収集し、14社の価格情報会社を通して消費者に価格情報を提供している。

 ドライバーはこのシステムを通じて、ほぼリアルタイムで小売価格を知ることができる。このシステムはオーストラリアの一部州でも導入され、ドライバーは年平均93ドルを節約できたという報告もある。イギリスでは12の大手販売業者が自主的に、こうしたリアルタイム・プライスウォッチを運用して1年以上が経つ。

 翻ってわが国のガソリン価格情報は、極めてあいまいなまま長年放置されてきた。補助金の支給基準となっている石油情報センターの価格において、「現金」「フリー価格」という一般的に最も高く売られている価格が採用されている。この価格が実売価格ではないことは、一般的なドライバーでも知っているはずだ。

 しかも、複数の価格を表示するガソリンスタンドが多い。ドライバーは、いったいガソリンがいくらなのか、給油してみないと分からないケースも多い。

 イギリスではガソリンスタンドに関して、価格を明確に表示することを定めた価格表示法、誤解を招く価格表示を禁止する不公正取引・消費者保護法、そして今回のポンプウォッチに関するデジタル市場・競争・消費者保護法が定めされている。

 日本にも全国石油商業組合連合会の「価格表示の適正化ガイドライン」があるものの、現状ではほとんど機能していない。ガソリンスタンドが価格看板に「888」などの意味不明な表示をして、ドライバーが価格を視認できなくても何も罰せられない。

 ガソリンに関係する全ての業界団体や関係者は、減税による価格の引き下げに頼るだけでなく、まず価格の透明性を確保し、公正な競争を促進するべきだ。

 この1年間だけでも、長野県におけるカルテル(石油組合による組織的価格調整)、神奈川県、東京都における軽油カルテルが問題視された。これらは氷山の一角に過ぎない。「価格表示の適正化ガイドライン」を作成している組織の下部組織がカルテル行為を行っているのだから、聞いてあきれる。

 ガソリン業界は、商習慣を含めて抜本的に改革する必要がある。なぜ、ガソリン価格高騰に対して減税を主張する政党が、この問題に正面から取り組まないのか、不思議でならない。

 業界と政治の強いつながりが、結果的に正常な競争環境を歪めている。ガソリン減税を、ただただ訴える政党や議員には、国民の視点が欠けている。