国内では物価の上昇が続く中、2029年までにガソリンの需要は24年比11.4%の減少が想定されている(「2025~2029年度石油製品需要見通し」石油製品需要想定検討会)。インフレは実質的に税収を減少させる。さらにガソリン消費量の減退が、ガソリン税の収入を減少させる。

 こうした中で、脱炭素社会に移行するためのモビリティ・インフラ投資をどのように賄っていくのだろうか。この疑問に答えることなく減税政策がすすめられれば、着実に確実に、社会基盤を危険にさらすことになる。

ガソリン補助金は累計8兆1719億円へ
3年間でほぼ1年半分の石油関連税に匹敵

 政府は、ウクライナ侵攻から始まった「ガソリン等の燃料油高騰に対する激変緩和処置」として、2022年1月27日から3年間で8兆1719億円に上る巨額な補助金(累計予算額)を投入してきた。今なお暫定税率に対する結論待ちを理由に補助金は投入され続けている。

 24年度の石油にかかる税金は、総額5兆7300億円(24年度当初予算、石油連盟『今日の石油産業2024』)である。この3年間でほぼ1年半分の石油に関する税金が、激変緩和処置を名目に支出されたことになる。

 暫定税率の廃止による減税規模は、ガソリン税のみで計算しても1兆円を超える。激変緩和の総額と比べると8分の1にとどまる。しかし、期限が設定されていないとすれば話は別だ。

 下の図は、この激変緩和によって投入されたガソリン1リットル当たりの補助金支給額の推移と暫定税率の上乗せ分の比較を示したものだ。オレンジ色の横線が暫定税率上乗せ分。この線より上の部分が、この上乗せ額を越えて支給された部分。線と支給額の間の部分が、激変緩和を越えて追加される減税額である。今回の減税策激変緩和の莫大な資金投入と比較すると、暫定税率の廃止はいかにインパクトが大きいか分かるだろう。

図表:激変緩和支給額と旧暫定税率(¥/ℓ)縦軸の数字は円/ガソリン1リットル。資源エネルギー庁の資料を基に筆者作成
拡大画像表示