仕事も勉強も、やる気はあるのに先延ばししてしまう。多くの人が抱えるこの悩みに、心理学の視点から答えるのが、新刊『すぐやる人の頭の中──心理学で先延ばしをなくす』だ。著者は、モチベーションの研究を専門とする筑波大学人間系教授・外山美樹氏。この記事では、特別に本書から一部を抜粋し、モチベーションにまつわる心理学の最新知見を紹介します。

自分に合った心理的作戦を適用する
獲得または防御へのフォーカスは、目標に向けて邁進する行動に大きく影響します。

獲得型は、積極的でリスクを恐れないアプローチをとります。一方で、防御型は、注意深く慎重なアプローチを好みます。
このため、それぞれに合わせた最適なアプローチの選択が重要になるのです。
獲得型の目標には獲得型のアプローチを、防御型の目標には防御型のアプローチをとることで、モチベーションを高めやすくなります。それによって、目標も達成されやすくなるでしょう。
また、最適なアプローチを選ぶことで、「正しいことを行っている」という感覚が得られるとも言われています。
目標を追求する際に大切なのは、結果だけでなく、その道のりです。適切なアプローチによって、その道のりを「正しく」歩んでいるという感覚がもたらされます。適切なアプローチを選び、正しさの感覚をもって目標を目指す時、モチベーションや忍耐力が高まるのです。
用いる心理的作戦は、目標やあなたのフォーカスに適したものにすべきです。獲得型と防御型の仕組みを理解することで、目標や行動を適切に選択しやすくなり、到達までの道のりも楽しみやすくなります。
ここからは、獲得型と防御型のそれぞれにおいて、どのような心理的作戦を使うとよいのかについて見ていくことにします。
タイプ別・効果的な計画の立て方――レポート提出の実験
3日目の講義で、エッセイを書く時間と場所を事前に決めてもらうだけで、エッセイの提出率がぐんと上がったという実験結果を話しました。
簡単な計画をつくるという単純な方法によって、目標達成率が格段に上がるということでしたが、獲得型と防御型では、「どのように」計画を立てるかによって、目標達成率が変わってきます。
では、まずは心理学の実験を紹介しましょう。
参加者に、レポート課題を与え、それを後日提出するよう指示を出しました。
レポート課題の内容は、次の土曜日にどのように過ごしたかについてまとめる、といったものです。
レポートを書き終えたら、レポートを郵送するか、実験室に直接持参するかのどちらかで、提出するよう依頼しました。
レポート課題を指示した際に、参加者には、レポートを「いつ」「どこで」「どのように」書くのかについて、次のAかBのいずれかの方法で想像してもらいました。
・Aは「良いパフォーマンスを出す方法を考える」もので、
・Bは「悪いパフォーマンスを回避する方法を考える」というものです。
A:良いパフォーマンスを出す方法を考える
半分の参加者には、Aを想像してもらいました。
具体的には、「レポートを書くことができる、快適で、自分に都合の良い時間」「レポートを書くことができる、快適で静かな場所」を想像してもらいました。そして、最後に「できるだけ詳細に書き、いかに興味深いものとするのか」について想像してもらいました。
B:悪いパフォーマンスを回避する方法を考える
残りの半分の参加者には、Bを想像してもらいました。
具体的には、「他の用事が重なってレポートを書くことができない、自分に都合の悪い時間」、「レポートを書くことができない避けるべき場所」を想像してもらい、最後に「どんな詳細なことも不足することなく書き、いかに退屈なものにしないようにするか」について考えてもらいました。
AとBのやり方で、獲得型と防御型の提出率はどのように変わるでしょうか?
実験の結果――それぞれのタイプに合った計画の立て方
では、結果です。
獲得型の人は、Aのやり方を使った場合のレポート課題の提出率は74%でした。一方で、Bのやり方を使った場合の提出率は53%でした。
防御型の人は、Aのやり方を使った場合のレポート課題の提出率は45%でした。一方で、Bのやり方を使った場合の提出率は74%でした。
・獲得型の人は、A「良いパフォーマンスを出す方法を考える」ことが効果的で、
・防御型の人は、B「悪いパフォーマンスを回避する方法を考える」ことが効果的だ
ということになります。
このように、獲得型と防御型では、同じ目標であっても、最適な計画の立て方が異なるのです。

参考文献:1 Spiegel, S., Grant-Pillow, H., & Higgins, E. T. (2004). How regulatory fit enhances motivational strength during goal pursuit. European Journal of Social Psychology, 34(1), 39-54.
※本稿は、『すぐやる人の頭の中──心理学で先延ばしをなくす』(ダイヤモンド社)より一部を抜粋・編集したものです。