テロ事件関係でいえば、1987年に大韓航空機爆破事件を起こして逮捕された金賢姫と、拉致被害者・田口八重子さんの関係である。

 金賢姫は逮捕後に移送された韓国で、李恩恵という日本人拉致被害者から日本語を習ったと自白しているが、李恩恵とは田口八重子さんであることがのちに日本の警察によって明らかにされる。

 大韓航空機爆破事件への関与を否定している北朝鮮としては、田口八重子さんを露出させて、この事件を蒸し返させたくないと考えたに違いない。

拉致に関わった人間が
送還後に英雄扱い

 原敕晁さん拉致については、対外情報調査部の対日工作員辛光洙や在日本朝鮮人総連合会(朝鮮総連)関連団体の幹部が深く関連していることが1985年、韓国で逮捕された辛自身の自白から明らかにされている。

 辛は2000年に北朝鮮に送還され、「非転向長期囚」として記念切手にも描かれるほど同国で英雄扱いされている。

 仮に原さんが表に出ると、拉致犯・辛光洙との関係が再度クローズアップされる。そうなると拉致を指示した者は処罰しながら、実際の拉致犯は英雄として称えているという矛盾が露呈し、拉致に対する北朝鮮側の説明の破綻を自ら認めることにもなる。

 さらに原さん拉致事件に総連の関連団体幹部が関与していることで、総連組織への影響も考慮されたと考えられる。

 同じようなことは、「よど号」事件犯人グループの妻たちによって拉致された松木薫さん、石岡亨さん、有本恵子さんについてもいえる。

 北朝鮮が日航機よど号を1970年にハイジャックした共産主義者同盟赤軍派の犯人をかくまっていることは、アメリカ政府による「拉致支援国家」指定の理由の1つにされてきた。

 加えて北朝鮮当局が、「よど号」事件犯人グループ関連の拉致をはじめとする組織的犯罪に直接・間接にかかわっていると明らかになることは、どうしても避けたかったに違いない。

帰国を望む心が最大の障害
「生存者」リストから外れた人々

 一方、こうした事件と関連のない拉致被害者たちのなかでも、日本政府との面会の際に、北朝鮮側の描いた筋書きどおりに話してくれないと思われる人たちは、「生存者」リストから外された可能性が高い。