これは退職代行を使われた側の立場に立ってみれば、容易に想像がつくはずです。一緒に働いていた人がいきなり、第三者を使って退職の通告をして姿を消す。残った仕事は引き継ぎせずに放り出し、必要な事務処理も知らんぷりをすれば、せっかく築いた信用を失うのは当然です。

 転職でキャリアアップしていくのは、前職で築いた見えない資産を生かせる人です。転職のたびに見えない資産を雪だるまのように膨らませて成果を出していくのですが、退職代行を使うと見えない資産がゼロになるか、むしろマイナスになります。

 会社側や上司に何らかの問題があるケースも多々あるでしょう。もちろんそれらの問題は会社が改善に取り組まなければなりませんが、それでも自分の筋は通すべきです。周囲はその人の辞め方をよく見ています。同じ業界で働き続ける場合、悪い噂ほどよく伝わってくるものです。転職面接でも前職を辞めた理由や辞め方はチェックされます。

 安易に退職代行を使う若手社員がいるのは、もしかするとビジネスパーソン教育があまり行われなくなっていることも一因かもしれません。大学を出て新入社員としてビジネス社会に入ると基本的な礼儀作法や言葉遣い、お客様への対応の仕方、会食をセッティングする際に配慮すべきポイント等々、さまざまな暗黙知的なルールがあります。学生気分が抜けずにちょっと舐めた気分で社会に出たところで、こうしたルールを知らずに踏み外して上司や顧客からガツンとやられる。

 そうした経験からビジネス社会を生きていくうえで、どのような振る舞いが適切かを学んでいくわけです。しかし、新型コロナ禍や過剰にパワハラと批判される風潮のせいか、あまり教えられる機会がなくなってしまいました。その果てに退職代行のようなサービスが生まれたのかもしれません。

 しかしカジュアルな雰囲気に釣られて安易に退職代行サービスを使うと自分のキャリアにとって不利益になる可能性があり、周囲にも迷惑をかけることはしっかり理解してほしいと思います。

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