JCWらしさをBEVでどう表現したか
足回りのセッティングを柔らかくした理由

 そんな中の1台、エースマンE JCWについて話を進めよう。まずバッテリーの容量アップとモーターの改良で、出力は258psを発揮する。エースマンSEが218psだから40psの向上だ。E JCWは高出力に耐えられるようボディ剛性の向上と足回りが見直されている。ダンパーの減衰圧とバネレートはJCW用の専用設定。

 開発スタッフによるとこのセッティングが難しかったという。というのも、BEVはガソリン車よりも車両重量が重くなるほか、重心位置が低くなりすぎる傾向がある。重いバッテリーを低く積むのだからそうなるのが道理だ。その結果、高くなったフロアとロールセンターとの位置関係が複雑になるのだ。従来のようにハード化するとロールを不自然なカタチで消すことになり、運転していて楽しくないと感じられる。

 そこで、彼らは通常ガソリン車に設定する足よりも柔らかくすることを考えた。足を固めるよりも動かしたほうが、スポーティな走りを味わえると結論づけたのだ。

 結果、エースマンE JCWの乗り心地がどうなったかというと、予想よりも快適になっている。3ドアハッチバックのJCWに象徴されるヒョコヒョコした乗り味は消え、マイルドになったのだ。エースマンと同じBEV専用プラットフォームを有する3ドアバッチバックのBEVも同じ傾向になった。

 ガソリン車とBEVを続けて走らせるとその違いがよくわかる。BEVのほうがスタートからスーッとフラットな乗り心地を提供する。さらにいえば、JCWエースマンはホイールベースが長い分、快適さが増す。これまでのJCWのイメージで走り出すと、拍子抜けするくらい乗り心地がいいのだ。

 それでもJCWである。攻めの走りで真価を発揮する。スープアップされたモーターの加速は過激なほど鋭く、加速Gで体をシートに押し付ける。スタートダッシュもそうだし、中間加速もそうだ。しかもエースマンE JCWはFWDなので、加速時に今時珍しいくらいのトルクステアを発生させる。ステアリングを押さえ込んでジャジャ馬を扱うような気分になるから楽しい。もしかしたらこのあたりは、意図的な演出かもしれない。JCWだから許されるテイストといえる。

 ちなみに、このクルマの0→100km/h加速は6.4秒。ただ、この数字と体感加速はかなり隔たりがある。感覚的には、過激というより上質な速さの持ち主だった。