「障害があったらどうしよう」。

 そうした懸念は今のところ杞憂に終わっている。

 分離手術後、腫瘍(しゅよう)や感染症で手術を繰り返した。そのうち17年には腎臓の治療で6回の手術を受けた。今も体調は優れず、「長くは生きられない」とも感じている。

 それでも、自分を「幸運な男だ」と言う。あの分離手術を乗り越え、今も生きている。そんな自分を、ベトさんがいつも見守ってくれているのだから。

仲むつまじい様子のドクさんの家族。(左から)息子フーシーさん、ドクさん、妻テュエンさん、娘のアンダオさん〈読売新聞提供〉 同書より転載仲むつまじい様子のドクさんの家族。(左から)息子フーシーさん、ドクさん、妻テュエンさん、娘のアンダオさん〈読売新聞提供〉 同書より転載

 ベトナムの被害者協会などによると、戦時下で約480万人が枯れ葉剤を浴びた。その子や孫の代なども含めた約300万人が奇形やがんなどの疾病に苦しむ。

 同国政府は、枯れ葉剤が散布された地域にいた人や、奇形など特定の病気や障害を持つ「第1世代」と、その子供で同様の症状がある「第2世代」の計30万人超を「枯れ葉剤被害者」と認定し、給付金を支給している。ドクさんは第2世代にあたる。

 米国は現在も、枯れ葉剤と人的被害の因果関係について、科学的な根拠がないとする姿勢を崩していない。

[2023年7月9日掲載/浜田萌]

書影『「まさか」の人生』(読売新聞社会部「あれから」取材班、新潮社)『「まさか」の人生』(読売新聞社会部「あれから」取材班、新潮社)