
米国の農場では数週間後に数千万トンの大豆の収穫が始まるが、農家は大きな問題に直面している。世界最大の買い手が全く購入意欲を示していないことだ。
中国は米国産農産物の世界有数の買い手となっていた。中間層が拡大し、大豆かすなどで肥育した豚肉や鶏肉を好むようになったためだ。中国の旺盛な需要を商機と見込み、米国は生産量を増やしてきた。
だが大豆は、中国政府が対米貿易戦争で使う強力な武器となった。中国の買い手は米国産大豆の購入を契約せず、代わりにブラジルに目を向けている。米大豆輸出協会(USSEC)のジム・サッター最高経営責任者(CEO)によると、昨年のこの時期には、米国の大豆農家には中国の買い手から大口の購入予約が入っていた。
米トランプ政権が今年初めに中国製品に高関税を課して貿易戦争が始まると、中国は交渉の一環で、米国産大豆の購入拡大を提案した。
だが事情に詳しい関係者によると、中国政府は、合成麻薬「フェンタニル」の流入を巡って米国が課した関税20%をまず撤廃するよう求めた。米政府は、中国政府がフェンタニル製造に使われる化学物質の取り締まりを本格化するまでこれに応じない姿勢を示した。
中国はそれまでにも主要製品を使って米国に圧力をかけていた。今年に入り、自動車や電子機器、防衛装備品の製造に欠かせないレアアース(希土類)の供給を絞った。米政権は国内企業の強い要請を受けて中国の要求をのみ、一部ハイテク製品の対中輸出規制を緩和した。