成長か腰折れか 緊急調査 トランプ関税の衝撃#1Photo:ABACA PRESS/JIJI

8月11日、トランプ米大統領は中国への一部追加関税の90日間の再度停止を決定した。とはいえ、中国からの輸入品に対する米国の関税率30%は維持される。『成長か腰折れか 緊急調査 トランプ関税の衝撃』(全4回)の#1では、5人の識者にトランプ関税の影響を受けた今後の中国経済の先行きを分析してもらった。(ダイヤモンド編集部編集委員 竹田孝洋)

再び追加関税の執行延期
米中協議、合意にはまだ時間

 8月11日、トランプ米大統領は中国に対する一部の追加関税を90日間停止する旨の大統領令に署名した。米国の中国に対する追加関税30%、中国の米国に対する追加関税10%の状態が11月10日まで続くことになった。

 これに先立つ7月29日、米国のベッセント財務長官と中国の何立峰副首相らによる閣僚協議で90日間停止が大筋合意し、トランプ大統領による承認待ちとなっていた。

 2月4日に米国が麻薬の一種であるフェンニタルの中国からの流入を理由に、中国からの輸入品に対し10%の追加関税をかけた。これを皮切りに米中両国は、関税を巡って互いに報復関税をかけ合っていた。

 一時、米国の中国に対する税率は145%、中国の米国に対する税率は125%にまで達した。この過程で中国は米国へのレアアースの輸出規制も打ち出し、レアアースの米国への供給が停止された。

 5月12日に米中両国は、税率をそれぞれ米国30%、中国10%に引き下げ、24%の追加関税の執行を90日間停止することで合意した。その期限が8月12日だったのだが、それが冒頭に触れたように再延長された。

 また6月10日には中国から米国へのレアアースの輸出規制が緩和され、供給再開についても合意した。レアアースの供給停止が続けば、自動車など関連産業の生産が停止しかねなかった。

 米国が相互関税を巡る交渉で、相手国によっては関税の上乗せを一定程度維持する一方、米国製品に対する関税をゼロにするなどの強気な要求をのませてきたことと比較すれば、中国に対する姿勢はかなり慎重に見える。

 中国が米国にとってのアキレス腱ともいえるレアアースを武器にした交渉が功を奏したといえるだろう。とはいえ、現時点においても新たに関税が上乗せされている状態には変わりはない。

 中国の実質GDP(国内総生産)成長率は、目標とする5%前後の水準で推移しているが、関税がマイナスに作用することで5%を割り込む可能性が出てくる。

 また、消費者物価上昇率はゼロを中心にプラスとマイナスを繰り返しており、景気が大きく減速すればデフレに陥りかねない。

 そこで、ダイヤモンド編集部では、いわゆるトランプ関税の影響を交えた中国経済の見通しについて5人の識者にアンケートを実施した。

 次ページでは、その結果を公開するとともに中国経済の先行きについて検証する。