「あなたは人生というゲームのルールを知っていますか?」――そう語るのは、人気著者の山口周さん。20年以上コンサルティング業界に身を置き、そこで企業に対して使ってきた経営戦略を、意識的に自身の人生にも応用してきました。その内容をまとめたのが、『人生の経営戦略――自分の人生を自分で考えて生きるための戦略コンセプト20』。「仕事ばかりでプライベートが悲惨な状態…」「40代で中年の危機にぶつかった…」「自分には欠点だらけで自分に自信が持てない…」こうした人生のさまざまな問題に「経営学」で合理的に答えを出す、まったく新しい生き方の本です。
この記事では、読者から山口氏に寄せられた人生相談に対する回答を掲載します。(構成:小川晶子)

<質問>
家族を養いながら起業したい。リスクを最小限にするには?(40代・男性)
家族を養うことを考えると、起業という夢を諦めかけています。起業するにあたってリスクを最小限にする方法があればご教授いただきたいです。妻は仕事をしておらず、私一人の収入で支えています。子どもは4人いて、まだ中学生、小学生、幼稚園生です。
<山口周氏の回答>
「リスクをとって会社を辞める」は最悪
リスク0の起業については『人生の経営戦略』に思い切り書いたつもりです。
とくに「イニシアチブ・ポートフォリオ」と「オプション・バリュー」の箇所を読んでいただければ、悩みは解決するのではないかと思います。
先に「オプション・バリュー」ですが、選択肢を持つ重要性について話をしています。経営においては、オプションが減る意思決定は常に悪手です。今の会社をやめて、起業に専念することはオプションが減ることになります。
成功している人はリスクをとって、コミットしているのではないか?と考えがちですが、実はそんなことはありません。成功者ほどオプション・バリューを保ちながら、リスクをコントロールして起業しているのに対して、失敗者ほど大胆にリスクを取ることがわかっています。
本業を続けながら起業をすればいいのです。
仕事の組み合わせを考える
「イニシアチブ・ポートフォリオ」では、異質な仕事を組み合せる話をしています。
これまでキャリアというのは基本的に「一時期にやれるのはひとつの仕事」という前提で考えられてきましたが、リモートワークが社会に浸透し、「仕事と場所」の紐付きが解除されたことで、この前提は無効化されつつあります。近い将来、複数の仕事に同時に携わるのが新しい働き方になるのではないでしょうか。
そこで、仕事の組み合わせの良し悪しについて考える必要が出てくるのです。
良い組み合わせを目指すうえで必要となる視点の一つは「リスクとリターンのバランス」です。
具体的には、一方で「安定的だけれども大化けするリスクのない仕事」を持ちながら、片方に「不安定だけれども大化けするリスクのある仕事」を持つというアプローチです。
下側リスクをゼロにする方法
リスクとはそもそも不確実性のことです。「下方にぶれるリスク」だけではなく、同時に「上側にぶれるリスク」もあります。
リスクとリターンには非対称性があるので、うまく組み合わせることで、上側には大化けするリスクがあるけれど、下側には大損するリスクはないという仕事のポートフォリオを目指すことが可能です。
たとえばアインシュタインは、特許局の役人として働きながら、余暇の時間を使って論文を書き、その論文によってノーベル賞を受賞しました。理論物理の論文を書くと言うプロジェクトには大きな「リスクとリターンの非対称性」があります。論文を書くことで失われるのは研究に費やした時間と執筆に用いる文房具代くらいのものですが、論文が高く評価されたときに得られるリターンの大きさは計り知れません。
今なら、アプリ開発などが考えられるのではないでしょうか。うまくいかなかったとしても失うものは開発に費やした時間くらいのものです。僕の友人でも、会社員をしながら楽しくアプリ開発をしている人がいます。
とにかく最初は固定費を抱えないことですね。
「エフェクチュエーション」を学ぼう
加えてアドバイスするなら、「エフェクチュエーション」について学んでみてください。エフェクチュエーションとは、経営学者のサラス・サラスバシー教授が提唱した理論で、優れた起業家に共通する意思決定プロセスを体系化したものです。
一言で言えば「手元にある資源をもとに、許容できる損失の範囲内でまずやれることをやった上で、状況の変化をポジティブに取り込んでいくことを目指すアプローチ」です。参考になると思います。
(※この記事は『人生の経営戦略』を元にした書き下ろしです。)