法的通貨との価値維持、預金保護の対象
即時決済性という利点を享受できる

 ゆうちょ銀行の「トークン化預金」は、デジタル通貨の開発を手掛けるディーカレットDCPの通貨「DCJPY」を導入し、預金口座とひも付けて、1円=1DCJPYとして発行、入金する仕組みだ。

 郵貯トークンの中心にある技術は、改ざんできない記録を残せるブロックチェーンという技術だ。

 やや不正確な点はあるが、たとえ話で説明すれば、石に文字や数字を容易に刻むことを可能にするような技術だ。いったんデータを書き込めば、それを後から修正・改ざんすることが事実上できない。したがって、そこに暗号資産などの取引を記録しておけば、その記録による保有者が正当な保有者だということになる。この石を誰でも見られるところに置いておけば、正当な保有者が誰かを確認できる。

 ビットコインやイーサリアムなどの暗号資産も、この技術を用いて発行・運用されているが、ただし、その仕組みは極めて分かりにくい。

 ブロックチェーンには、パブリックブロックチェーンとプライベートブロックチェーンがある。

 パブリックブロックチェーンとしては、ビットコインやイーサリアムを発行・取引するブロックチェーンがある。パブリックブロックチェーンでは、データの記録作業に誰でも参加できる。

 この参加者はマイニングという作業を通じて報酬を得る(イーサリアムの場合、かつてはマイニングを通じて報酬を得ていたが、現在はステーク方式と呼ばれる方式に移行している)。これに対して、プライベートブロックチェーンは、銀行など特定の部局が運営する(注1)。

 ブロックチェーンで生成される暗号資産の価格は、需要と供給によって決まるので、変動する。それを一定に保とうとするのがステーブルコインだ。

 価値を安定させる方法としては、いくつかのものがある。現金や預金を信託口座などに保管する「法定通貨担保型」が主流だが、この他に暗号資産を担保とする型や、アルゴリズムによる需給調整型などもある。ただし、価格を一定化する努力は、常に成功するとは限らない。

 日本では23年6月に改正資金決済法が施行され、ステーブルコインは「電子決済手段」として位置づけられた。発行には銀行、信託会社、または信託スキームを活用する資金移動業者など、一定のライセンスや登録が必要とされる。

 郵貯トークンは、郵貯残高の取引だ。例えば、DCJPYを介して「郵貯貯金の1万円」を取引する。これは預金なので、もともと、法定通貨に対する価値は一定だ。

 新しい技術を使ってはいるものの、制度上はこれまでの預金と同様の扱いとなる。

 利用者の立場から見て特に重要なのは、法定通貨建て預金を保有しているのと同じ保護が与えられる点だ。例えば、預金保険制度の対象となるので、金融機関の破綻時には、一定の保護がなされる。つまり、預金に関する法的性質は保持されたまま、即時決済性という利点を享受できる。

 なお、トークン化預金は銀行預金そのものであるため、発行・管理はパブリックブロックチェーンではなく、銀行のシステム内、あるいは複数金融機関が参加するブロックチェーン上で行われる。