
9月3日に「中国人民抗日戦争と世界反ファシズム戦争勝利80周年記念大会」と称する式典が、北京で開催されました。ひときわ注目を集めたのは、天安門の楼上で、習近平国家主席を真ん中に、ロシアのプーチン大統領、北朝鮮の金正恩朝鮮労働党総書記が並ぶ姿でした。金氏の外交の狙いとは――。(作家・元外務省主任分析官 佐藤 優、構成/石井謙一郎)
金正恩総書記
極めて異例の登場
9月3日に「中国人民抗日戦争と世界反ファシズム戦争勝利80周年記念大会」と称する式典が、北京で開催されました。天安門広場の一帯では、最新型の大陸間弾道ミサイルやステルス戦闘機など100種類以上の新型兵器を披露する、6年ぶりの軍事パレードがありました。
中国メディアによると、中央アジア、東南アジア、アフリカ諸国を中心に26カ国の首脳級が出席したとのことです。ひときわ注目を集めたのは、天安門の楼上で、習近平国家主席を真ん中に、向かって左にロシアのプーチン大統領、右に北朝鮮の金正恩朝鮮労働党総書記が並ぶ姿でした。
金氏が多国籍の外交の場に登場するのは、極めて異例です。金氏にとってロシア、中国との良好な関係性をアピールする狙いがありました。
金氏は式典の後、プーチン氏の大統領専用車に同乗して宿泊先の釣魚台国賓館へ移動し、2時間半に及ぶ首脳会談を行いました。両氏の会談は、2023年9月のロシア極東ボストーチヌイ宇宙基地、24年6月の平壌に続いて、3回目です。
歴史認識において
ロシアに歩み寄る北朝鮮
プーチン氏は8月12日、金氏に電話をかけて「祖国解放記念80年」の祝辞を贈っています。
発表によると、プーチン氏は「日本の植民地支配からの解放80周年」を祝い、金氏は「侵略者との戦いで果たした(ソ連)赤軍の役割を記憶する(ロシアと)共通の祝日だ」と述べた〉(8月13日「朝日新聞」デジタル版)
こうした経緯から、ロ朝関係が極めて良好であるとともに、歴史認識において北朝鮮がリアリズムの立場からロシアへ歩み寄っていることがうかがわれます。祖父・金日成氏と父・金正日氏の時代には、金日成将軍に率いられた抗日パルチザンが朝鮮を解放したとされ、ソ連の関与はほとんど語られませんでした。対して正恩氏は、〈侵略者との戦いで果たした(ソ連)赤軍の役割を記憶する(ロシアと)共通の祝日だ〉(同)と明確に述べています。
3代目の正恩時代になった北朝鮮が、歴史に対する自国中心史観を脱構築しつつあることは興味深いです。ロシアとの関係であつれきを引き起こしかねない歴史神話に固執するよりも、史実を尊重した方が北朝鮮の国益にかなうと考える正恩氏のリアリズムが反映されています。
このところロシア寄りだと見られていた北朝鮮は、金氏自ら北京を訪れて中国との関係改善を図っただけではありません。同時に金氏は米国のトランプ大統領に対しても、対話を呼び掛けています。