計画通りに実行できず、“計画倒れ”を経験したことがある人は多いだろう。モチベーションの研究を専門とする筑波大学人間系教授・外山美樹氏によると「目標達成の確率を上げる心理的作戦」があるという。本記事では外山氏の著書『すぐやる人の頭の中──心理学で先延ばしをなくす』をもとに、勝手に行動がついてくる計画の立て方を紹介する。(文/神代裕子、ダイヤモンド社書籍オンライン編集部)

すぐやる人の頭の中Photo: Adobe Stock

目標達成に向けた行動をとれるようになるには?

 筆者は新年になると、あれこれ目標を立てるのが好きだ。

 「○○へ旅行に行く」「旅行英語をマスターする」「今年こそ○キロ痩せる!」といった具合だ。

 しかし、なかなか実際に行動に移せていないのが現実だ。そのため、毎年同じ目標が入っていることも少なくない。

 その状態について、外山氏は次のように語る。

誘惑に負けず、目標達成に向けて行動を起こすには、相当な意志の力が必要になります。これには、こころのエネルギーといった資源を消費することを伴います。
資源には限りがあるので、仕事や家のことで忙しければ、当然、意志の力を発揮しにくくなる場面もやってくるはずです。そこで、確実に計画を実行に移すためには、資源を使わないことが求められます。(P.102-103)

 こころの資源……「頑張るぞ!」というエネルギーを使わずに、効率よく行動する方法はあるのだろうか。

目標達成の鍵となる「実行意図」

 外山氏によると、心理学のさまざまな研究で、単に目標を決めるよりも、その目標が到達されやすい方法があるという。

 それは、「いつ」「どこで」「どのように」行動するのかといった具体的な手がかりと行動を結ぶ計画を立てることだ。

 ある目標や目的に向けて人が行動を起こす時には「目標意図」と「実行意図」の2つの意図が作用すると考えられている。

 目標意図とは、自分が成し遂げたいものを特定すること。「痩せる」「資格試験に合格する」などがそれにあたる。

 一方で、実行意図は、前述した「いつ」、「どこで」、「どのように」行動するのかをあらかじめ決めるものだ。

 具体的には、「夕方の6時になったら、30分間のランニングを始めよう」といった「もし(if)○○したら、(then)△△を実行しよう」という「if-then」形式で計画を立てることをいう。

 漠然と「運動をする」といった目標を設定するだけではなかなか運動にとりかかることは難しいが、具体的な実行意図を形成することで行動に移しやすくなるというわけだ。

「もし○○なら△△する」と決めておく

 外山氏は「この実行意図を立てておくことで、誘惑を退けることもできる」と語る。

 たとえば「高カロリーの食べ物が頭に浮かんだら、その考えを無視する」「課題を進める際に気が散るものに直面したら、私は課題に集中する」などと、実行意図を形成した人たちの方が、ダイエットを成功させたり、課題に集中したりできるのだそうだ。

 あらかじめ条件と行動を結びつけておくことで、意志の力を使わずに自動的に行動できる。だから、誘惑にも流されにくくなる。

 これは、「する」と決めても続けられず、「しない」と決めても守れない筆者にとっては朗報だ。

 しかし、なぜ実行意図を形成すると、目標を達成しやすくなるのだろうか。

 外山氏は次のように解説する。

人間は、情報を「もし○○なら△△」という言葉で符号化するのが得意で、このプロセスを使って(しばしば無意識に)行動を導いています。
いつ、どこで、目標に向かって行動するかを正確に決めることで、状況や手がかり(if)と、その後に続くべき行動(then)の間に、脳のリンクができるのです。(中略)
それによって脳はすばらしい働きをします。(P.119)

 行動を決めておくと、まずは、「~したら(if)」という特定の状況や手がかりが脳で意識されやすくなるという。

たとえば、「夕方の6時になったら、30分間走る」という実行意図を形成したとします。
それによって、あなたは意識することなく、脳が周りを見回して、「if」の部分を探し始めます。他のことに気を取られていても、これらの状況や合図を簡単に検知できるようになるのです。テレビを見ていても、6時になったら、それに気づきやすくなるといった具合です。(P.119)

 そして、脳のリンクができると、条件と行動の結びつきが起こり、「if」の条件が生じると、次にとるべき行動が自動的に生じるのだそうだ。

脳の自動機能を活用して目標を達成しよう

 外山氏は、この実行意図について、「意志の力をほとんど必要としないばかりか、行動するつもりがなくても自動的に機能する」と語る。

 これは、何か新しいことに関心を持ったら、そのことについて脳が情報収集を始め、自然と目に入ってくるようになることと似ているのではないだろうか。

 外山氏によると、「この実行意図の形成は、たった一度であっても実行される」というのだから、これを活用しない手はない。

 「もし○○なら△△する」を有効活用して、なかなか達成できなかった目標を今度こそ達成したいものである。