
三田紀房の起業マンガ『マネーの拳』を題材に、ダイヤモンド・オンライン編集委員の岩本有平が起業や経営について解説する連載「マネーの拳で学ぶ起業経営リアル塾」。第30回では、「靴下」に特化して上場を果たしたアパレルメーカーについて解説する。
「普通の店」になってはいけない
主人公・花岡拳たちが手がけるTシャツ専門店「T-BOX」の1号店が東京・渋谷にオープンした。T-BOXには、幼なじみの「ノブ」こと木村ノブオや、花岡を敵視する一ツ橋商事・井川泰子らが訪れる。
井川はTシャツしか販売しないT-BOXを「あれじゃ全然ダメね」と一蹴。失敗してつぶれるのは時間の問題だとあざ笑う。しかし部下の高野雅人は、Tシャツだけを売るというコンセプトについて、「その斬新さとユニークさに世間が気づいた時にどういう風が吹くのかと思うと…」と思案し、花岡を「とても賢くてしぶとい人」と評するのだった。
とはいえT-BOXは好調な滑り出しとは言えない状況が続く。Tシャツだけという新しいコンセプトに対して、現状は客側がついていけず、売り上げは上がらない。花岡の腹心である日高功も「心配してたとおり」と語り、花岡に対応策を立てるよう打診する。
ほかの幹部からも商品種類の拡充などの提案を受けるが、花岡はすべての意見を却下して、こう語る。
「ダメだ。そんなことしたら普通の店になっちまう」
「あの店はTシャツだけを売る店だ。そこに他の商品を入れたら…タバコ屋じゃなくなる……」
「1000円3足」の時代にブランドを作る、靴下専門メーカー

以前に本連載でも触れたとおり、T-BOXのコンセプトは、のちにユニクロのTシャツ専門店「UT STORE」というかたちで現実のものとなった。だが実際のところ、「●●専門店」を展開するアパレルビジネスでの成功例は限られている。
そんな成功例の1つが、靴下専門店「靴下屋」を展開するタビオだろう。同社は「靴下屋」「Tabio」といったブランドを中心に国内外で270以上の店舗(2025年9月現在)を展開している。
タビオは1968年創業(創業時の商号はダン)。もともとは靴下の卸売りからスタートするも、SPAモデル(Specialty store retailer of Private label Apparel:企画から生産・製造、販売までのバリューチェーンを自社で一気通貫したビジネスモデル)にビジネスの軸を移した。
そして2000年10月には当時の大阪証券取引所2部に上場している。
同社が強みとうたうのは、自社工場や協力工場と連携して実現した、国産を中心とする商品群の品質だ。今や量販店で1000円3足の靴下が買える時代だが、品質の差で他のブランドの差別化を図ってきた。一点突破のブランド作りは、花岡たちとも通ずるところがある。
オープン直後の客の反応から、弱気な声を上げる幹部たち。だが花岡は、これから連続して3店舗を出店するという計画を語る。はたして今後その計画は実現するのか。

