そういった多くの外交的成果を出した1期目とは打って変わって、2期目の外交はちぐはぐで、中国包囲網はむしろ弱体化しつつあると見ていいだろう。

 なぜこのようになったのか、また、日本が今後どのように対応していくべきかを考える。

中国の封じ込めに
消極的なトランプ政権

 冷戦期のアメリカによるソ連封じ込め政策は、NATOや日米安保体制を基盤とし、同盟国の結束と信頼を前提に成立していた。中国封じ込め戦略においても、多国間連携は欠かせない。

 1期目のトランプ政権(2017~2021年)は、安倍晋三元首相の外交努力を尊重し、日本が提案する枠組みに乗った。安倍元首相が提唱した「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」は、孤立主義に陥りがちなアメリカを国際協調に呼び戻した。

 この政策は、基本的にバイデン政権にも継承された。

 ところが、2期目のトランプ政権は、外交の最優先事項を中国包囲網から別のところに変えている。

 今年に導入された「一律10%の輸入関税」、さらに自動車や鉄鋼への最大27.5%の追加関税は、日本や韓国、EU諸国の産業に直撃した(EUと日本についてはその後解除)。トヨタやホンダは販売価格を引き上げざるを得ず、ドイツや韓国メーカーも打撃を受けた。

 その一方で、トランプ大統領は同盟国に「対中デカップリング」を迫った。同盟国は「対米関税」対策と「対中制裁」対策という二重の困難に直面し、それぞれの国内政治に混乱を招いた。

 ところが、アメリカ自体は、国家安全保障を理由に制限されていたエヌビディアのH20チップについて、制限を解除して輸出ライセンスを発行する方向に変更し、貿易交渉では禁輸措置を一部緩和するなど、ここに来て融和姿勢が目立つようになっている。

 2期目のトランプ大統領の台湾防衛については、当初から、その消極姿勢を不安視する声もあった。

 英『フィナンシャル・タイムズ』(2025年8月5日)は「Trump is the gift that keeps giving to China(中国に貢ぎ続けるトランプ大統領の異常)」と題する記事で、同盟国に苛烈な高関税を課す一方、中国周辺の台湾やフィリピンにはさほど関心を示さないトランプ大統領の姿勢を「異常」と厳しく批判した。
https://www.ft.com/content/d10ea991-627d-4c79-8d80-04af180c69dc