自民党の新総裁に
求められること
2期目のトランプ政権はロシアとの協調にも失敗している。欧州諸国はエネルギー依存のため制裁に足並みをそろえられず、米国の対露戦略は空転した。
トランプ外交で重要なのは、中ロ関係を分断させて、ロシアを再び国際舞台に戻すことである。それができなければ、ウクライナ和平の達成は困難だろう。
日本はNATO諸国に比べると、ロシアとのしがらみが少ない。サハリン・エネルギーや極東経済交流を通じて限定的な窓口を保持しており、安倍元首相が築いたプーチン大統領との関係は、当時のスタッフがいるかぎり完全に壊れることはない。
ロシアとの交渉を活性化し、中国包囲網を強化するには、日本のトップがハブとなるしかない。特に、安倍元首相の政治手法を受け継ぎ、アメリカ政治に理解のあるトップがつくことが、これを実現する鍵になる。
また、日本に課された15%の相互関税についても、アメリカ国内投資や雇用創出と連動させることで、段階的に緩和することは可能だろう。それには、トランプ大統領が「納得」することが何よりも重要である。
特に、半導体、レアアース、EV電池などの次世代産業の土台となる分野で日米共同投資を進めることは、有益な説得材料となりうる。
また、中国包囲網においては、クアッドの立て直しが必要だが、それには日米がインドに対して、インフラ投資、技術投資、軍事協力などの「実利」を提示して、インドを中ロから引き戻すことが必要だ。
たとえば、安倍元首相が存命なら、トランプ大統領がモディ首相と決裂する前に手を打ったはずである。その役割を担える日本トップが、いま切実に求められている。
最も重要なのは、台湾有事がアメリカにとっても大きな打撃となり得ることをトランプ大統領に納得させることだ。ビジネスマンであるトランプ大統領に理想を説くことはほぼ無意味であり、「その投資がどのようなリターンを生むか」という観点で説得しなければならない。
トランプ大統領が「中国包囲網」に消極的になったのは、国内政治優先、イギリス優遇という矛盾、ロシア協調の失敗、インドの中ロ接近、そして安倍元首相という調整役の不在が重なった結果である。
次の自民党の新総裁には、それを担う重責がある。選択を誤れば、日本の国益が害されるだけではなく、国際的な安定を失う可能性すらある。
次の日本のトップが国際的にもいかに重要かを、改めて確認したい。
(評論家、翻訳家、千代田区議会議員 白川 司)