みどりの窓口で可能だったサービスが
なぜネット時代に実現できないのか
現状の完全に独立したサービスから、小さくとも未来に向けた一歩が踏み出されることは評価したいが、結局のところログインの手間を省くだけだ。利用者が期待する「連携」とは、ひとつの予約サービスで全ての列車が予約でき、1枚のICカードに紐づけてチケットレス乗車できる姿だろう。
みどりの窓口では可能だったサービスが、なぜ、ネット時代、チケットレス時代に実現できないのか。
かつて国鉄は、世界初のコンピュータ列車座席予約システム「MARS(マルス)」を開発し、全国の駅や旅行会社からオンライン・リアルタイムできっぷを予約、発券できる仕組みを構築した。マルスはバージョンアップを重ねて現在も列車運行を支えており、ネット予約サービスの情報も最終的にはマルスで管理している。
日本で商用インターネットが普及したのは1990年代後半のことだが、マルスの運用・管理を継承した鉄道情報システム(JRシステム)は、1980年代にパソコン通信で新幹線予約が可能な「PC-Stn.」を展開しており、来るべきデジタル社会・ネット社会への問題意識はあったはずだ。
しかし、オンライン決済ができないなど機能が限定的だったこともあり、JR各社は独自の予約サービスを開発。最終的に予約システムと駅務機器を接続したチケットレスサービスが構築された。これら企業努力が商品力強化や利便性向上につながったのは確かだが、本格的なデジタル社会が到来するにつれ、分割民営化の弊害として顕在化してしまった感がある。
各社は将来的なネット予約サービス統合の可能性は排除せず、検討課題としているが、それぞれ異なるシステムや機器をバックグラウンドに成立しており、現段階でサービスの統一は困難と説明する。
また、単純に統合すると、対象路線や商品の幅が広がりすぎて、かえって使い勝手が悪くなる懸念もある。みどりの窓口では係員が最適なきっぷを提案してくれるが、素人が多数の選択肢から最適なサービスを選ぶのは難しいからだ。
実際、JR東海の「EXサービス」は東海道新幹線の予約に特化することで、「シンプルで、使い勝手の良い操作性」が高く評価されているため、在来線特急の予約は取り扱っておらず、事実上「e5489」に委託している。人間レベルの「AI駅員」が登場するまで、ネット予約のみどりの窓口化は難しいのかもしれない。
まずは「各社の磨いてきた最良のネット予約サービスを使い分けていただけるよう、各サービス間で連携し、分かりやすく、利便性の高いサービス構築」が目標と各社は述べる。きっぷの受け取り可能駅や、チケットレスサービスの提供範囲などサービスレベルの統一については、将来的な検討課題としては認識しつつも、現段階で具体的な計画はないそうだ。
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各社は予約サービスの構築・運営への投資額を明かしていないが、他業界に目を向ければ複雑化・高度化するITシステムの構築に数百億~数千億円が投じられる事例も珍しくない。同様のサービスを各社個別に開発するより、可能な範囲で共通化すれば規模の経済が期待できるのは言うまでもない。
JR各社は今回の「連携」にコスト削減の目的はないと述べるが、長期的な国内市場の縮小が避けられない中、システム統合による合理化は将来的な選択肢になるだろうか。これはJRの予約サービスに限った話ではなく、鉄道各社がこぞって導入する乗車ポイントやQRコード乗車サービスなどにも当てはまる。
JR東日本は関東鉄道事業者7社と共同でQRコード乗車券の導入を進めており、センターサーバー式Suicaの技術も他事業者に提供する用意があると表明している。鉄道のデジタルサービスは拡大から集約へと転換点を迎えつつあるのかもしれない。







