スマホ、ネット、SNS……気が散るものだらけの世界で「本当にやりたいこと」を実現するには? タスクからタスクへと次々と飛び回っては結局何もできない毎日をやめて、「一度に1つの作業」を徹底する「一点集中」の世界へ。18言語で話題の世界的ロングセラーの新装版『一点集中術━━限られた時間で次々とやりたいことを実現できる』。その刊行を記念して、訳者の栗木さつき氏に話をうかがった。(構成/ダイヤモンド社書籍編集局)

【働き方】三流は「長時間労働」、二流は「同時進行」。では一流は?Photo: Adobe Stock

集中の要は「環境づくり」

――翻訳作業で、こういうときはとくに集中するという場面はありますか?

栗木さつき氏(以下、栗木):いったん完成した翻訳原稿を最終確認するときは、とくに集中力が必要です。そういうときは音読するので、無音の環境で作業します。

――最初から最後まで頭の中で音読しながら読むんですか? めちゃくちゃ時間がかかりそうですね。

栗木:かかりますね。でもそうしないと、日本語のリズムがつかめないんです。翻訳者はみなさん、されてるんじゃないかな。

――そうすると、途中で電話がかかってきたりしたら嫌ですね。

栗木:それは通知をオフにしたり、集中できる環境にしてやっています。会社員の方だと、「会議室にこもればいい」ってこの本には書いてましたね。集中するには環境づくりが必須です。

脳は「勘違い」が得意

――この本は、マルチタスクは絶対にやめるように繰り返し強調していますね。マルチタスクについて、栗木さんは得意なほうですか?

栗木:いえ、まったく。テレビを見たり考えごとをしながら料理をしていて、指を切ったとか、出汁を取った後、出汁ガラを捨てるべきなのにスープのほうを捨ててしまったりとか、しょっちゅうです。

 こないだは桜の時期にジョギングをしていて、「ああ、きれい」と思って上を向いていたら転んで大怪我をしてしまいました。血がダラダラ流れてズボンも破れてしまって。これはただの不注意かもしれませんけど(笑)。

 でもこの本には、そもそも人はマルチタスクをすることは「不可能」だと書かれていますね。

 マサチューセッツ工科大学のアール・ミラー博士はこう述べている。
「何かをしているときに、べつのこと(タスク)に集中することはできない。なぜなら2つのタスクのあいだで『干渉』が生じるからだ。人にはマルチタスクをこなすことなどできない。『できる』という人がいるとしたら、それはたんなる勘違いだ。脳は勘違いするのが得意である」――『一点集中術』より

――私が台所に立ってもたもたしているときなど、妻によく「本当にマルチタスクできないよね」と侮られるので、ぜひ読ませたい一節です。

本当に生産的な方法は?

栗木若い人を見ていると、スマホを見ながら自転車に乗っていたり、イヤホンで音楽を聴きながら横断歩道を渡っていたりしますよね。あれも自然にできているように見えても、どこかで事故や怪我のリスクを負っているのだと思います。『一点集中術』にはこういう記述もありました。

「若い世代はマルチタスクが得意なんでしょ?」という質問をよく受ける。
 はたしてハイテク社会で育った世代には、同時に複数のことをこなす能力が自然と身についているのだろうか?
 いや、そんなことはない。
 グーグルの元CIO(最高情報責任者)のダグラス・メリルは、「おとなより子どものほうがマルチタスクを得意とするのは、周知の事実だ。とはいえ、一つ問題がある。その周知の事実が間違っていることだ」と述べている。
 高校生と大学生の記憶量の限界は、成人と同程度である。ゆえにタスクの切り替えばかりしていると、年齢にかかわらず、記憶力も理解力も低下する。――同書より

 いくら若くても、マルチタスクはできないんです。仕事でも「マルチタスクが得意」という人はいるかと思いますが、それはたんにそのときどきでタスクを切り替えているだけ、というのが神経科学的に見た説明になるようです。

 集中のことを考えると、メリハリをつけずにだらだらと長時間労働をするのは最悪ですが、いろんなことを同時進行で走らせて効率的に働いている気になっているのも望ましくないということです。

――マルチタスクをすると、誰でも認知能力が下がってしまうんですね。会社でも売上が高くて出世の早い人は、マルチタスク型よりも一点集中で仕事ができる人が多いです。

栗木:はい。仕事でもどんなことでも、メリハリをつけて、1つずつの作業に100%集中するのがいちばんです。

(本記事は、デボラ・ザック著『一点集中術━━限られた時間で次々とやりたいことを実現できる』の翻訳者インタビューです)