スマホ、ネット、SNS……気が散るものだらけの世界で「本当にやりたいこと」を実現するには? タスクからタスクへと次々と飛び回っては結局何もできない毎日をやめて、「一度に1つの作業」を徹底する「一点集中」の世界へ。18言語で話題の世界的ロングセラーの新装版『一点集中術━━限られた時間で次々とやりたいことを実現できる』。その刊行を記念して、訳者の栗木さつき氏に話をうかがった。(構成/ダイヤモンド社書籍編集局)

「恐ろしく仕事ができない人」の特徴・ワースト1Photo: Adobe Stock

テクノロジーが時間を奪う

――『一点集中術』では、分析心理学の創始者カール・ユングに触れた部分も面白かったです。

栗木さつき氏(以下、栗木):テクノロジーのことを「悪魔」と呼んでいたという話ですね。電報、電話、手紙といった現代から見ればむしろアナログなものが「悪魔」とされていました。

 分析心理学の創始者であるカール・ユングは、1925年にアフリカを訪れたとき、こう記している。

「(同行者と私は)アフリカなる世界を経験する幸運に恵まれた。(中略)われわれのキャンプ生活は、私の生涯のもっとも素晴らしい時の一つとなった。私はなお原始時代にある国の“神の平和”を享受した。(中略)私と、すべての悪魔の母であるヨーロッパとの間には、幾千マイルものへだたりがあった。悪魔はここにいる私にまでは手を伸ばすことはできなかった――電報も、電話も、手紙もなく、訪問客もいない。私の解放された精神力は喜び勇んで原始世界の広がりへと逆流した」――『一点集中術』より

 ユングは、電報や電話、手紙といった通信手段から解放された状態を「神の平和」と表現しています。本書は、このユングの記述を受けて、現代の読者に、自分にとっての「悪魔のテクノロジー」のリスト化を勧めています。

 ユングは、20世紀初頭ヨーロッパのテクノロジーという「悪魔」から解放された状態を「神の平和」と描写した。そして、電報や電話のない生活を心からいつくしんだ。

 さて、それからたった100年しか経過していない現在、電報や電話といった基本的な通信手段は、プライバシーや心の平穏をおびやかすほどのものではなくなった。

 では、あなたにとって「悪魔のテクノロジー」の現代版とは、いったい何だろう? その答えとして頭に浮かんだものを、すべてリストにして書きだそう。――同書より

あなたにとっての「悪魔のテクノロジー」は?

――栗木さんにとって、現代の「悪魔のテクノロジー」とは何ですか?

栗木:やはり、スマートフォンとSNSだと思います。もちろん、役に立つことも多いですが、知りたくない人の悪意を反映するような情報や、フェイクニュースまで入ってきてしまう。これは良くない悪循環だと感じています。

――しかし、仕事や生活において、スマホがなくても生活はできるものでしょうか?

栗木:仕事のメールが必要なことはありますが、一日に何度も見る必要はありません。私自身、旅行中はほとんどスマホを見ませんが、なければないでどうにかなります。

 究極的には、昔のガラケーでメールと電話ぐらいの方が、「一点集中」を生活に取り入れるにはいいですよね。ガラケーではSNSを見ることも難しいでしょうから。

ダメな自分を「仕組み」で矯正する

――私自身、時間ができるたびに自動的にスマホを見るのが習慣化しています。5分程度ならいいですが、30分や1時間など、長時間ムダに費やしてしまうこともザラです。「悪魔のテクノロジー」から逃れるためにはどうすればよいのでしょう?

栗木:これは自分の意志だけではなかなかブレーキがかけられません。だからこそ、ある程度フェンスやバリアを設ける工夫が必要です。たとえば、スマホは「スクリーンタイム」を使って一日に見れる時間を制限するとか。

 また、ユングがアフリカで解放感を得たように、電波が入らない場所に行くのもおすすめです。私は趣味が登山ですが、電波が入らない山小屋などにいると、強制的に下界とシャットアウトされます。精神衛生的にもとてもすっきりします。

――物理的にバリアをつくるなど「環境づくり」が、一点集中を実現する鍵ですね。

栗木:そうですね。大事なのは意志より環境だと意識して工夫することが大切だと思います。でないと、毎日の時間があっという間に溶けていってしまいます。

――「意志では勝てない」ということを学習せずに環境も変えず、毎日同じ失敗を繰り返していたら、仕事にせよなんにせよ「おそろしくダメな人」と言われてもしょうがないですよね。ぜひ今日から仕組みを取り入れて行動を変えるようにしてみます。

(本記事は、デボラ・ザック著『一点集中術━━限られた時間で次々とやりたいことを実現できる』の翻訳者インタビューです)