「継続」の重要性

吉田:これは転職や大きなキャリアチェンジだけを意味しません。社内での新しい役割や社外での活動、学び直しや執筆、地域や家庭での挑戦など、多様なかたちがありえます。

さらにドラッカーは「継続学習」の重要性を繰り返し説いています。

自分の人生の先にある、「こうありたい自分像」のために、目の前の仕事だけでなく広い視野で現時点からできることを考えていくこともまた燃え尽きを避けるよい方法かもしれません。

『すでに起こった未来』ではこんな逸話を紹介しています。

「十八世紀の禅の高僧、白隠慧鶴は、禅の始祖達磨を描くのにどれだけの時間を要したかを聞かれて、『十分と八十年』と答えたという」

つまり、リーダーもまた、今ある責任を果たしながら次の可能性に向けて自分を育て続ける必要があります。

燃え尽きを避ける自己マネジメントとは、単に休むことではなく、「第二の人生」という広い時間軸を見据えて、自分の強みや価値観を新たな挑戦に生かしていくことなのです

ドラッカー最大のメッセージとは?

――最後に、吉田さんご自身が考える「ドラッカーから現代ビジネスマンへの最大のメッセージ」を教えてください。

吉田:ドラッカーの言葉には、

「企業の目的は顧客の創造である」
「マーケティングの目的は、販売を不要にすること」
など有名なものが多くあります。

ドラッカーはその生涯で40作近い本を出していますが、セルフマネジメント、人のマネジメント、仕事のマネジメント、事業のマネジメント、社会に関すること、自伝的なものや小説などじつに多岐に渡っており、その雄大な世界はドラッカー山脈といわれることもあります。

その中でも私がいちばん心惹かれている言葉は『マネジメント』の最終章にある言葉です。

1973年に出版された『マネジメント』は日本語のエターナル版では上・中・下巻と三冊に分かれており、全部で1000ページを超えるボリュームですが、今なおたくさんの愛読者がいる人気の書籍です。

この最後に『結論 マネジメントの正統性』という章があります。ドラッカー山脈の要諦を捉えるにあたりとても大切な章であるように感じていますが、この中の一文を紹介したいと思います。

「私的な強みは公益となる」

ドラッカーは「組織は道具である」といいます。組織は、個人が自らの力を世のため人のために役立てるための架け橋です。

だからこそ、「私的な強みは公益となる」という言葉には、彼のマネジメント思想の核心が凝縮されています。

自分の強みを知り、それを生かして他者に貢献する。

その営みこそが人を成長させ、組織を動かし、社会を豊かにしていく――。

この一文に触れるとき、私はいつもドラッカーの言葉が経営の理論にとどまらず、未来を生きる私たち一人ひとりへの普遍のメッセージであるように感じます。

あなた自身の強みは、どんな形で公益につながっていくでしょうか。