決戦は生放送終了後の10時、毎朝15分の真剣勝負
生放送終了後の午前10時、八重沢さんのもとに5つの企画が持ち込まれる。翌日の放送に向けた、ネタ当て会議だ。ディレクターたちは1つの企画に対して前々日から少なくとも6時間はかけて準備をするという。それだけの時間をかけて臨む、たった15分の真剣勝負。
だが八重沢さんには、ずっと気になっていることがあった。
「5つのうち1つか2つ、これは絶対にやらないというネタが入っていたりするんです。帳尻合わせとか、たくさん書いてある方が企画書の見栄えがいいとか、自分も出す側だったから気持ちは分かるのですが、ディレクターたちが選ばれる可能性が低い企画に少なからず時間をかけている。そのムダをなくし、100点でなくていいから番組の基準に達する企画を5つ持ってきてほしい。そして、それを実現するところに力を注いでほしい」

そんなとき、社内のAI勉強会で、同社のAI開発をリードする辻理奈さんに出会った。
「僕の分身というと偉そうなのですが、ディレクターの壁打ち相手になる総合演出の判断軸を持った『八重沢AI』ってできるんですかって、そのときは半分冗談で話したんです」(八重沢さん)
一方の辻さんは、「八重沢さんの課題感にすごく共感した」と振り返る。日本テレビは、2025年からの中期経営計画で「コンテンツ企画制作へのAIエージェントの実装」を掲げている。しかし辻さんは、現場がAIを強力なサポーターだと実感できなければ浸透しないと考えていた。
「大事なのは、現場の人たちの『自分のもの感』。課題の当事者である皆さんが、この機能、この要素は僕が入れたんだって、一人一人がAIエージェントを自分のものだと思えるようになることが何より大切」(辻さん)

こうして、2025年5月、総合演出やディレクターたちのノウハウをAIに学習させ、企画制作支援AIエージェントを開発するという前代未聞のプロジェクトが始まった。