学習意欲のある日本のビジネスパーソンは、47%に上る。一方、グローバルの調査において、日本は「学習・自己啓発について特に何も行っていない」が52.6%。対象となった18の国と地域で最も自己研鑽(けんさん)ができていないという結果となった。学びたいのに時間がない、モチベーションが続かない。そこから一歩踏み出すには?(ノンフィクションライター 酒井真弓)
仕事と子育てに忙しい営業担当者が、
難易度高のIT資格を取得するまで
すかいらーくホールディングスの藤本祥恵さんは、2人の子どもを育てながら、営業担当者(以下、営業)としてフルタイムで働いていた。平日の朝から土日まで1秒たりとも無駄にはできない。唯一自由になれるのは通勤電車の中。仕事はそれなりに評価されているし、家族からも必要とされている。でも、本当にこのままでいい……のか?
充実した日々に少し物足りなさを感じたのは、同僚の勧めで、Google Cloudのユーザーコミュニティー「Jagu'e'r(ジャガー)」のイベントに参加したことがきっかけだった。ユーザーコミュニティーとは、特定のサービスや製品のユーザー同士が、会社の枠を超えて交流・情報交換する場を指す。藤本さんが参加したのは、クラウドのスキル向上を目指すゲーム感覚のイベントで、IT業務未経験の営業ながらエンジニアに混じって切磋琢磨(せっさたくま)し、なんと18位にランクインした。
結果が出たらうれしくなった。せっかくもらった特典のバウチャー(資格試験のクーポン券)で「Google Cloud Digital Leader 認定資格」に挑戦。受験するからには落ちたくないと奮起し、人生初の資格を取得した。
久しぶりに目標を持って参考書に向き合うと、幼い頃の夢とともに、ある思いが込み上げてきた。
「私、小学生の時に学校の先生になりたかったんです。勉強が好きだし、人を育てることもやってみたかった。今の私は、やることはたくさんあるけれど、本当にやりたいことはできてないんじゃないかって」
子どものため、会社のため、誰かのためになる仕事には得難い充実感がある。だから、これまで何となく自分のことを後回しにしてきてしまった藤本さん。やりたいことに気付いてからは、「Associate Cloud Engineer 認定資格」、さらに難易度の高い「Professional Data Engineer 認定資格」も取得するに至る。
「勉強仲間の存在も刺激になりました。Jagu'e'rに参加して良かったのは、本当にすごい人にたくさん出会えたこと。私は1つの資格を取るにも、ものすごい苦労をしているのですが、皆さんは当たり前のように幾つも取得して、20を超えるメンバーも(参考記事)。私も頑張らなきゃと思います」
転機は、会社員生活にもやってくる。営業本部でDXを任されていた藤本さん。任命された当初はExcelが少し得意なくらいだったのだが、資格の勉強を通して自力でできることを増やし、社内のIT勉強会もリードするようになった結果、社内で表彰されたのだ。
その後の経営陣との懇談会で、藤本さんは現場の課題を問われ、「マスターシステムの整備が不十分で困っている」と伝えた。かれこれ10年以上未解決の難題だった。
数日後――藤本さんは、マスターシステム構築の専任担当として、マーケティング本部に異動することになる。「口は災いのもと、って本当(笑)。でも、活動が認められて新しい仕事をゲットしたという意味では、喜ばしいことですよね」