【マンガ】そりゃ社員の心も離れるわ…自己チュー社長が言い放った「あまりに酷いひと言」『マネーの拳』(c)三田紀房/コルク

三田紀房の起業マンガ『マネーの拳』を題材に、ダイヤモンド・オンライン編集委員の岩本有平が起業や経営について解説する連載「マネーの拳で学ぶ起業経営リアル塾」。第32回では不利な条件を有利に変えた、唯一無二な経営戦略について解説する。

それを言ったらお終いでしょ…社長が言い放ったNGワード

 Tシャツ専門店「T-BOX」の1号店をオープンし、続けて新たに3店舗を出店する計画を立てた主人公・花岡拳。幹部メンバーを連れ、東京・新宿の駅ビルのテナント募集説明会に参加することになる。

 今回駅ビルで募集するテナントは、同じファッションフロアの2つの区画。1つは広さ125平方メートルでエスカレーターのすぐそば。もう1つは、広さ33平方メートルと小さく、場所もフロアの端っこで、なおかつ目の前にはビルの柱がある区画だった。

 広さも立地条件も圧倒的に前者がいいため、会場に集まるアパレル業者の多くはこの区画を取るべく、入札を行おうと考える。だが一方で、いい条件だからこそ保証金も賃料も高額だ。しかも後者は、売り上げ不振で撤退続きの区画だという。

 だが花岡は、後者の区画に出店する決意をする。幹部メンバーの大林隆二と日高功はこの出店に対して明確に反対の意見を呈すが、花岡は「お前らの意見なんか聞いちゃいねえんだよ」と一蹴する。

居抜きよりさらに“お得”な出店戦略で不利を逆手にとったドンキ

漫画マネーの拳 4巻P116『マネーの拳』(c)三田紀房/コルク

 コストこそ下がるが、あえてビジネス面で不利な区画を選ぶ花岡。それに幹部が反対するのは無理もない話だ。

 しかし経営の歴史を振り返ると、あえて「不利な立地」に挑むことで道を切り開いた企業がある。その代表例が唯一無二なディスカウントストア「ドン・キホーテ(ドンキ)」を手がけるパン・パシフィック・インターナショナルホールディングス(PPIH、旧:ドン・キホーテホールディングス)だ。

 ドン・キホーテをはじめとして、国内655店舗、海外124店舗(2025年9月時点)を展開するPPIH。ドンキは、店舗撤退後の跡地、いわゆる「居抜き物件」の活用で、高速かつ低コストな出店を進めていると評されるが、ドンキのすごさはそれだけではない。

 実は居抜き物件への出店とは別に、「赤字で撤退を検討している店舗」の運営本部にアプローチし、身代わり出店を提案するという戦略も持っているのだ。

 これにより、店舗の運営本部は赤字リスクを、施設側は空床リスクをそれぞれ避けることができる。さらにドンキは居抜き物件を探すよりも簡単に、好立地を短期間・低コストで手に入れることができるというわけだ。

 一見すれば「撤退続きの区画」であっても、自社の商品や戦略に自信があればそこはまさに「一等地」になる――。ドンキの出店戦略には、そんな新興企業的な戦い方があるのだ。撤退続きの区画に出店を計画する花岡の考えも、“ドンキ流”の経営哲学に通じるところがあるのではないか。

 新宿出店のため、テナント契約を決めた花岡。だが、幹部メンバーでの会議は大荒れ、ついには幹部1人との決裂が待ち構える。

漫画マネーの拳 4巻P117『マネーの拳』(c)三田紀房/コルク
漫画マネーの拳 4巻P118『マネーの拳』(c)三田紀房/コルク