現代人に求められる「放っておく力」

「いまどきの幼稚園」といいますか、保護者へのサービスの一環として、教室にビデオカメラを設置するところが増えているようです。

「子どもたちの様子が、いつでもスマホで見られますよ」というのです。

 いっしょに過ごす時間が少なくなると、親子の親密度が薄まるとおそれるのか。子どもの行動のすべてを把握しておきたいのか。あるいは幼稚園を信じて、子どもを任せることができないのか……。

 いずれにせよ、このサービスにひかれる保護者の方はおそらく、

「子どもを保育園・幼稚園に預けると、親子の距離がなんとなく広がってしまいそう。ビデオカメラというテクノロジーを利用してもらうと、その心配がなくなるかもしれない」

「カメラという“監視装置”があれば、幼稚園の先生もさすがに悪いことはできなさそう」

 などと、いいことだと評価しているのでしょう。

 けれども私には、それがいいこととは思えません。

 だから、私のお寺の境内にある太陽幼稚園では、その種のサービスを提供していません。導入する予定もありません。理由はおもに二つあります。

 一つは、親が子離れ、子が親離れをする機会を逃すことです。

 現実には、親が家や職場、子が園にいる数時間は、互いが離れて過ごします。物理的にかなりの距離があります。

 ところがビデオカメラがあると、その距離が縮まります。まるで子どもがすぐ目の前にいるような感覚になるでしょう。それは一見いいことのようですが、本当にそうでしょうか。ビデオカメラの手を借りて、親は子離れ、子は親離れができなくなるだけでしょう。

 そもそも子どもたちは、園の先生や保育士さんら、親以外の大人からたくさんのことを教えてもらいます。

 そういう人間関係の中で成長するからこそ、子どもたちはスムーズに親離れができるようになるのです。

 親にしてもそうです。一度ビデオカメラを使うと、自分の目の届かないところで子どもがどうしているかが気になってしかたがなくなります。その結果、子離れができなくなるのです。