
記憶工学研究所所長・池田義博氏は、日本記憶力選手権大会で6回優勝した経験を持つ、記憶術と脳力開発の第一人者だ。彼が提唱する「6大脳力(記憶・集中・学習・認知・理解・創造)」を高めるためには、まずその土台となる「セルフコントロール力」と「イメージコントロール力」を磨く必要がある。本稿では、池田氏の動画「50歳でも記憶力はアップ! 加齢に勝てる脳トレ法」から、その核心部分を特別に公開する。
感情を適切にコントロールするマインドフルネス
私が重要と考える「6大脳力」は、記憶・集中・学習・認知・理解・創造の6つです。これらを伸ばすことが最終的な目標ですが、その前提として欠かせない土台があります。それが「セルフコントロール力」と「イメージコントロール力」です。この2つを鍛えることで、6大脳力のトレーニングは格段に効果が増します。
ここでは、まずセルフコントロール力についてお話します。セルフコントロール力とは、自分がいま考えていることや感じていること、さらには実際の行動を客観的に認識し、意識的に望ましい方向へ導いていく力です。

現代社会は誘惑や情報にあふれています。感情や行動を適切に制御する力は、ますます重要になっています。その方法として注目されているのが「マインドフルネス」です。
私がこの必要性を痛感したのは、記憶力大会での敗北でした。日本やオーストラリアの大会で優勝し、自信を持って臨んだ香港大会で、思わぬ惨敗を喫したのです。原因は私が注意力のコントロールを失ったことにありました。競技中、頭の中に雑念が浮かび、それを振り払えないまま集中を取り戻せなかった。記憶は集中の上に成り立っていますから、その時点で結果は決まっていたのです。
この経験から私はセルフコントロール力を強化する必要性を痛感し、たどり着いたのがマインドフルネスでした。
マインドフルネスとは、「今この瞬間の自分の状態に気づき、評価せずに受け止める」心のトレーニングです。呼吸や身体感覚に意識を向けることで、思考や感情の動きを客観的に眺め、衝動を抑え、自らの行動を意図的に選択できるようになります。
神経科学の研究では、神経科学の研究では、マインドフルネスによって前頭前野に構造的な変化が生じることを確認されています。前頭前野は注意力や感情のコントロール、判断力、計画性を司る領域です。さらに、ストレスに関わる扁桃体の過剰な活動を抑える効果も示されています。
近年では、マインドフルネスがワーキングメモリや情報処理速度、柔軟な思考などの認知機能を高めることも報告されています。つまり、マインドフルネスは単なるリラクゼーションではなく、脳の基盤そのものを強化するトレーニングなのです。