「報告書は100枚、でも伝えるのは1メッセージ」→抜群の成果を出す人がやっていること
「1つに絞るから、いちばん伝わる」
戦略コンサル、シリコンバレーの経営者、MBAホルダーetc、結果を出す人たちは何をやっているのか?
答えは、「伝える内容を1つに絞り込み、1メッセージで伝え、人を動かす」こと。
本連載は、プレゼン、会議、資料作成、面接、フィードバックなど、あらゆるビジネスシーンで一生役立つ「究極にシンプルな伝え方」の技術を解説するものだ。
世界最高峰のビジネススクール、INSEADでMBAを取得し、戦略コンサルのA.T.カーニーで活躍。現在は事業会社のCSO(最高戦略責任者)やCEO特別補佐を歴任しながら、大学教授という立場でも幅広く活躍する杉野幹人氏が語る。新刊『1メッセージ 究極にシンプルな伝え方』の著者でもある。

「報告書は100枚、でも伝えるのは1メッセージ」→抜群の成果を出す人がやっていることPhoto: Adobe Stock

「報告書は100枚、でも伝えるのは1メッセージ」→抜群の成果を出す人がやっていること

 コンサルが顧客企業やパートナー企業を訪問するとき、同僚たちと直前にロビーで集合したりする。一人ずつ徐々に集まるが、全員が揃うまでには隙間時間ができる。ジュニアコンサルタントがその隙間時間でやることは大きくは二つだろう。

 一つは、スマホをいじること。メールを確認したり、チャットをしたり、ニュースを見たり。

 もう一つは、チームの仲間と談笑すること。プレゼン資料はいまからはもう変えられない。自分たちのやるべきことはやり尽くした。そんな感覚だろう。

 しかし、代表してプレゼンするプロジェクトマネージャーは違う。

 もちろん、スマホをいじることもあれば、チームメンバーと談笑することもあるが、そのチームの輪から少し距離を置いたところで「一人になる」時間をつくる人が多い。

 もっと言うと、直行するときにはチームでの集合時間より1時間早く現場に着いて、近くのカフェでコーヒーを一人で飲む人もいる。わたしはこの後者だった。

 では、なぜプレゼンするプロジェクトマネージャーは一人になりたがるのか。それは、「最後の最後まで1メッセージを考え抜く」ためだ。

最後の最後まで、1メッセージを磨く

 戦略コンサルのプロジェクトでは「クライアントに伝える1メッセージはなにか?」を最初から最後まで自問自答し続ける。

 まずは、プロジェクトの初日だ。デイ0(デイゼロ)とも呼ぶ。デイ0には、チームで集まってキックオフの社内ミーティングを開く。

 そこで「最終的に、わたし達がクライアントに伝える1メッセージはなにか?」を議論する。始まったばかりだが、もう最終的に伝える自分たちの1メッセージを考えるのだ。

 もちろん、自分たちの1メッセージにまだ自信は持てない。それでも、1メッセージを言い切ってみる。言い切ることを戦略コンサルの用語では「スタンスをとる」とも言う。

 言い切ったり、スタンスをとってみたりすることで、自分たちの1メッセージの脆弱な部分が見えてきて、それを確認したり補強するために必要な分析やアクションがわかってくる。そうして、自分たちも一歩前に踏み出せるようになる。

もし、途中で間違いに気づいたら?

 プロジェクトの中盤では、分析や実際のテスト施策を進めていくに連れて、最初に考えた1メッセージが間違っていることに気づいたりもする。これはとてもよくある。

 そのときは、過去の自分を否定して、1メッセージを変える。

 大事なのは自分たちの考えを守ることではない。相手に伝わり、相手に動いてもらえるような、相手の問題解決の起点となる1メッセージを考えることだ。

 なので、間違っていたらそれを速やかに認め、自分を否定し、そこから学んで軌道修正し、よりよい新しい答えの1メッセージを立てていく。「答えの進化」のサイクルをプロジェクト中にまわしていくということだ。戦略コンサルでは答えのことを仮説とも呼ぶので、答えの進化は「仮説の進化」とも呼ばれる。

100枚を超える最終報告書を「1メッセージ」にまとめる

 プロジェクトが終わりに近づき、クライアントへの最終報告会の直前になっても「最終的に、わたし達がクライアントに伝える1メッセージはなにか?」をみんなで確認する。

 100枚を超える最終報告書であっても、全体を1メッセージで包み込む。それによって、分厚い報告書であっても、なにを伝えているものかがはっきりする。

 1メッセージに続く細かくて膨大な内容も、1メッセージが全体のタイトルのようになっているので、それにちなんでいる限りは聞く人にとっては関連付けて情報処理できる。結果として、分厚い報告書でも相手に伝わりやすくなる。

 1メッセージを確認するのは、最終報告書をチームで仕上げる前はもちろんだ。

 しかし、それだけではなく、報告書は完成していてもう資料上では変えられなかったとしても、そして、ジュニアコンサルタントはほっとしてスマホをいじったり仲間と談笑していたりしていたとしても、プロジェクトマネージャーは一人になって最終報告会の直前まで1メッセージを自問自答する。そこで一人で考える問いは、一つ。

「最終的に、わたし達がクライアントに伝える1メッセージはなにか?」だ。

 自分たちが伝えるべき1メッセージの一言一句に最後まで拘り続ける。もうあと10分しなかったとしても。資料がすでに出来上がっていたとしても。プロジェクトの初日からずっと考えてきたにもかかわらずだ。それが終わるのは、プロジェクトが終了する瞬間だ。

「1メッセージ」は怖い。だから、考え抜く

 以前に、学生から「戦略コンサルって、冷静沈着なイメージです」と言われたことがある。イメージはそうなのかもしれないが、実態は違う。

 たった一文の1メッセージをつくるために、悩み、苦しむ。短期間のあいだに何度も自己否定を繰り返す。自分を肯定できることの方が少ない。まったく、冷静ではいられない。最後は、一人ぼっちになって、もがいて考える。

 そこで生み出した1メッセージがダメなものであれば、相手に伝わらず、相手の問題の解決につながらず、みんなで必死になって頑張ってきた数か月も水泡に帰す。すべては自分が伝える1メッセージにかかっている。

 1メッセージは怖い。だから、プレゼンするプロジェクトマネージャーは、どんなにカッコ悪くても、隅っこで一人ぼっちになって、最後の最後までもがいて1メッセージを考えているのだ。

 たかが1メッセージ、されど1メッセージ。

 オフィス街のカフェで、一人で顔を真っ青にしながら、手元のコーヒーにはほとんど口をつけずに、ただ目をつぶって一人ぼっちで考えている人がいたら、それはプレゼンを控えた1メッセージを考えているコンサルタントかもしれない。

(本原稿は『1メッセージ 究極にシンプルな伝え方』を一部抜粋・加筆したものです)