日常会話で
“脳のメモ帳”を使い倒そう

 はたして、自分の脳は大丈夫だろうか――。

 心配になってきた人も安心してほしい。大武氏によると、老廃物がたまったりして脳が物質的に老化したとしても、認知機能そのものは、日常会話である程度保つことが可能だという。

「重力のない宇宙にいる宇宙飛行士は、筋トレをしないと筋肉が減ってしまうといいます。脳も同じ。手遅れになる前に日々、会話で鍛え直しましょう。

 脳は身体の中で筋肉の次に可塑性(再構築する力)が高いとされます。頭を使って会話をすれば、神経細胞同士の接続部、シナプスも強化され、新たな神経ネットワークが形成される可能性があります」

「頭を使う会話」をおおまかに説明すると以下の通りとなる。

話す:身近な出来事を思い出しながら言語化し、相手が理解できるよう工夫して話す
聞く:相手の話を聞きながら内容を整理し、気になることを覚えておいて質問する

 簡単なようでいて、やってみるとなかなか難しい、と大武氏。同時に複数の作業をこなさなければならないため、高度な認知機能が必要となるからだ。

 このとき鍛えられる脳の働きの一つが、「ワーキングメモリ」である。一時的に記憶した情報から必要な情報を引っ張り出したり、不要な情報を捨てたりする機能だ。いわば“脳のメモ帳”といったところだろうか。

「会話を通して、相手の話や最近の体験といった“メモ”を頻繁にチェックすることが、脳の機能を保つ重要なカギとなります」

質問時に封印したい
2文字のNGワード

 具体的にどんな点に気をつけると脳に負荷をかけられるのだろう。大武氏にポイントを挙げてもらった。

(1)「聞く:話す」の時間配分は「6:4」に

 年を取って認知機能が落ちてくると、人の話を聞くのが苦手になる。自分と異なる視点や思考回路を理解しようとすると、複雑な脳の処理が必要になるからだ。普段から話すことより聞くことに力を入れ、あえて脳に負荷をかけるようにしたい。

(2)「次に何を話そうか」を「何を質問しようか」に

 相手が話しているとき「次に何を話そうか」と考えていると、聞くことがついおろそかになる。意識を「質問したいこと」に向けると聞くことに集中できる。質問を重ねることで会話がさらに深まっていく。