「お前は勉強して官僚になれ」4000年以上前のエジプトで庶民の父が息子へ語った「成り上がり」の教訓写真はイメージです Photo:PIXTA

古代エジプトでは「文字を操る者=神の言葉を扱う者」とされ、書記は神官や官僚と並ぶ高位の職業。もともと書記は世襲だったが、ドゥアケティの生きたエジプトの古王国時代に、庶民が勉学にいそしむことによって就けるようになった。自身も庶民出身の彼が、成り上がりの教訓を息子に語った書物が「ドゥアケティの教訓」である。※本稿は、大城道則『古代人の教訓』(ポプラ新書)の一部を抜粋・編集したものです。

パピルス文書を保管する
研究機関「生命の家」

「見るがよい。私はあなたを神の道に置いたのです。書記の運命は生まれた時から決まっているのです。書記は仕事で役所に行き、そこで人々に敬われるのです。書記は王の宝庫から食料を得るのです。神は書記を出世させてくれるのです。あなたに人生の進路を与えてくれた両親を敬いなさい」(「ドゥアケティの教訓」より)

 この格言を理解するためのキーワードは「書記」である。書記とは古代エジプトにおいて人口の10パーセント以下の読み書きができた支配者階級の人々に対して使用された呼称である。書記は神殿に付属していた「生命の家」(古代エジプト語でペル・アンク)と呼ばれた研究機関で学んだ。「生命の家」は、現在で言うところの大学にある施設のようなイメージで、大量のパピルス文書を保管する図書館でもあった。そこでは読み書きをはじめとして、神学、天文学、医学、美術、数学などを学んだ。「生命の家」のような教育の場の存在は、古代エジプトの叡智を養うために必要不可欠なものであった。