「俺さ、大手企業に提案する新製品の企画プロジェクトリーダーに選ばれたんだ」

「そりゃよかったね。おめでとう」

「課長には『君は営業課の期待の星だ』なんて言われて、ちょっと照れくさかったけどね……。仕事ぶりを認めてもらえてうれしかった。俺の会社ってさ、若手にも大きな仕事を任せてくれるし、業績が上がれば給料やボーナスも増えるから、めちゃくちゃやり甲斐ある」

(Cはもうプロジェクトのリーダーを任され、営業マンとして着実にキャリアを積んでいるのか)

 Bはその姿に強い衝撃を受けた。さらにCは、上機嫌でこう言った。

「次に会うときは、この近くの、海沿いに新しくオープンしたシティホテルのラウンジに行かないか?外の眺めが最高らしいからパーッとやろう。何なら俺、飲み代おごるからさ……」

 その言葉に、Bは屈辱感を覚えた。帰宅後、ベッドの上にスマホを投げつけ、心の中で叫んだ。

「『奢ってやる』だって!調子に乗るなよ、俺だってやればできるんだ」

 入社して1年以上たつのに、Bの仕事は相変わらず先輩社員の補助やプレゼン資料の作成ばかりで、いまだに自分の営業担当が1社もない。「このままじゃ、Cとの差が開くばかりだ」と焦りを募らせたBは、ついにA課長に直訴した。

「僕にも担当をつけてください」と課長に直訴

「課長、僕にも担当をつけてください。先輩たちのように、営業として認められたいんです」

 突然の訴えに、A課長は驚いた。

「やる気があるのはいいことだけど、君にはまだ荷が重いよ。だいたい、自分の力で企画書も作れないだろ?それに、今君に任せられる会社はない」

 A課長としては、Bにいきなり営業担当を持たせることで業務量や残業が増えるのを避けようと配慮したつもりだった。しかし、Bは食い下がった。

「1週間前に新しく取引が始まった丙社でもかまいません。課長、あのとき『こんな小さな会社、誰を担当にしたらいいんだ。困ったな』って言ってましたよね。丙社は僕に担当させてください。がんばりますから……」

「はあ、そんなこと言ったっけ?ダメだよ、まだ無理だって……私はね、君のためを思って言っているんだよ。第一、残業が増えるの嫌でしょ?」

 その後もBは何度も「丙社の担当をさせてほしい」と申し出たが、A課長はそのたびに「今の君にはまだ早い」と取り合わなかった。しかしA課長は、心の中では何度もつぶやいていた。「本当は丙社を任せたいけど仕方がない。会社の方針だから……」