「いい会社で愛着もあるけど、給料が上がらない」。そう思っていたところに、年収1000万円という魅力的な条件で他社から転職の誘いを受けた社員。しかし会社に退職の意思を伝えたあとに事情が急変。「退職するのをやめたい」と、引き続き働けるように上司や社長に訴えた。相談を受けた社労士は、「『退職願』と『退職届』の使い分けができていますか?」と社長に尋ねた。その質問の意味することとは?(社会保険労務士 木村政美)
従業員数30人のIT系企業
<登場人物>
A:IT系の専門学校を卒業後、甲社で働くシステムエンジニア(SE)。入社10年目の30歳
B:専門学校時代の同級生。30歳
C:Aの上司でチーフ。40歳
D:甲社の社長。45歳
E:甲社の顧問社労士
いい会社だが、昇進しても給料やボーナスが上がらない
Aが入社した当時は社員5人の小さな会社だった甲社。その後順調に業績を伸ばし、毎年数人の社員を採用するようになった。Aは自分が担当しているSEの業務に加え、3年前からサブチーフとして部下の育成を任されたことでさらに仕事量が増えた。仕事はやりがいがあるし、後輩に教えるのも楽しい。メンバーは皆、良い人で社内の雰囲気も良い。しかし、サブチーフになっても給料やボーナスの額が上がらないことには少々不満を持っていた。
今年の正月休み。Aは朝から自宅のコタツで寝そべってテレビを見ていた。昼過ぎ、テレビに見飽きてウトウト状態になっていた時、突然スマホが鳴った。
「久しぶりだね。元気してる?」
電話の声は専門学校時代に同級生だったB。Aとは卒業後も仲良くしていたが、お互い仕事で忙しく、話すのは2年ぶりだった。ふたりはお互いの近況を1時間ぐらい話した後、どちらからともなく誘い合って、夕方一緒に飲みに行くことになった。