
8月実質賃金1.4%減、90年代半ばから下落傾向
自民総裁選、抜本策は議論されず
10月8日に公表された毎月勤労統計調査によれば、8月の実質賃金指数(現金給与総額、消費者物価指数による実質化、5人以上の事業所、2020年を100とする指数)は、対前年比1.4%減となり、8カ月連続のマイナスとなった。
実質賃金指数で見た日本の実質賃金は、高度成長の過程を経て上昇し、1996年に115.7となった。しかし、ここがピークで、これ以降はほぼ傾向的に下落している。
年平均値は2010年に105.4となり、15年に100.9になった。そして、20年に100.0になった。ピークに比べて15%ほど低下したことになる。
21年には100.5に上昇したものの、その後、落ち込み、23年に98.0にまで下落した。
その後、23年以降、春闘の高賃上げで、名目賃金のみならず、実質賃金も伸びたような印象を持つ。これはしばしば「物価と賃金の好循環」と呼ばれてきたが、今年を見れば、1月から8月まで実質賃金はずっと前年比マイナスのままだ。
自民党の総裁選でも、実質賃金の引き上げ問題が議論のテーマとなり、候補者たちは「実質賃金を1%ずつ上昇させる」「年収を3年で1割増」「インフレ対応型経済運営」などと、重要な課題として挙げたが、それを実現するための具体策にはほとんど触れられなかった。
新総裁になった高市早苗氏をはじめ多くの候補者が提案したのは、ガソリン税の旧暫定税率の廃止だった。
確かにこれによってガソリン価格は下がる可能性が高い。しかし、これは実質賃金引き上げと同じ効果を持つだろうか?
利益を得る人もいるだろう。しかし、日本人が全体として豊かになれるわけではない。だから、永続的な実質賃金の引き上げのような効果は期待できない。しかも、この政策はガソリン価格の引き下げを通じて、ガソリンに対する需要を増やす。それによって物価が上昇し、むしろ実質賃金が引き下げられる可能性が高い。
実質賃金の長期低落の問題を考える上で重要なのは、それが日本の国際競争力低下と軌を一にしているという事実だ。