土日出勤する社員の様子を見に行こうとした社長を妻はなぜ止めたのか。悪名高い“マイクロマネジメント”によって「自分のクローンをつくろうとした弁護士社長の失敗談」は、部下を持つすべての上司の教訓となるはずだ。本稿は、井上晴夫『任せる社長ほど会社はうまくいく 忙しい経営者は社長失格』(現代書林)の一部を抜粋・編集したものです。
経営者と同レベルの
社員は育成できない
私の人材育成、特に弁護士などの専門職の育成について、成功要因、失敗要因を簡単にまとめてみたいと思います。
振り返ってみると、私の弁護士採用の目的は、案件が多くて処理できないので、私とともに案件を処理してくれる人を雇うことでした。
弁護士は専門職ですので、クライアントは私と同じクオリティを求めています。それは法的処理の中身だけでなく、依頼することによる安心感、マインドの部分なども私と同等のものを求めています。
そうすると私は勤務弁護士に対して、そのようなものまで私と同じことをしてくる私の分身、いわば私のクローンを求めていたのだと思います。
このような考えが念頭にあることで、私は勤務弁護士の仕事に対してマイクロマネジメント(編集部注/管理職や上司が部下の行動を細かく管理し、過干渉すること)をするようになっていました。
しかもマイクロマネジメントの是非以前に、新人の弁護士が私と同じクオリティの仕事をできるはずはないので、うまくいくはずはなかったのです。
弁護士のような専門職の業務において、クライアントに事務所の代表弁護士と同レベルの品質のサービスを提供することと、勤務弁護士の育成とを両立していくことは困難を極めます。
世の中の弁護士事務所の経営者が勤務弁護士に案件を任せられない所以でもあります。
モノを作るのではなく、弁護士のような専門職の人間が提供するサービスにおいて、代表者と全く同じ品質のサービスを提供することはそもそも不可能なのです。
言った上司も言われた部下も
疲弊する最悪のひと言
勤務弁護士に自分の持ち味を発揮できるように育成しつつ、クライアントにも代表弁護士のサービスとは違った持ち味のサービスの良さを実感してもらい、それを受け入れてもらうようにすることが肝要ではないかと思います。
クライアントにそのようなサービスを受け入れてもらえるようになるまでに、代表弁護士は、勤務弁護士に案件を任せつつ、面倒見良く指導し、時にマイクロマネジメントをし、時に丸投げをしながら、その匙加減を間違わないように見守っていくしかありません。それが勤務弁護士の成長に欠かせないと思います。