怪談よりこわい借金
勘右衛門が目を大きく見開いていた。
「布団」の怪談を銀二郎が選んだのは、自分の故郷の鳥取の話であることと、布団にくるまる話だからだろうか。その流れで布団にくるまるというような? でもこの環境で、夫婦の営みは可能なのだろうか。余計なお世話だが心配だ。
あっという間に1カ月が経過した。
司之介の月代(さかやき)にも毛がすっかり生え揃い、横分けになった。1カ月前の彼をよく見れば月代の毛が少し生えてきていた。
お金(貨幣)を並べている銀二郎。なかなかの稼ぎの量に顔をほころばせるが、すかさず借金取りの森山(岩谷健司)がかき集めてしまう。
ここではじめて銀二郎は、自分がとんでもないところに婿入りしてきたことに気づくのである。
借金のことはある程度聞いていたが、ここまでとは思っていなかった。「馬車馬殿」なんて呼ばれて、仕事を増やそうかと言ってはみるものの、心のなかでは激しく動揺(あるいは落胆)しているのが感じられる。
それでも感じよく振る舞い続け、司之介の相撲につきあい、わざと負けたフリをする。「八百長が過ぎるわ」と勘右衛門は呆れるほどに、よくできた婿・銀二郎。彼のこの状況、従来だったら、主人公が嫁いだ先で、こわい姑がいたり、夫が実はギャンブルや女性に依存癖があることを知ったりして、どうしようと困惑する展開の婿バージョン。こんなはずじゃなかったと思うのは、女性だけではない。
その頃、雨清水家では氏松が出奔。工場は借金だらけになっていて、自分ではどうにもならないと音を上げたのだ。
銀二郎も氏松も、ややポンコツな父や義父の肩代わりをさせられて、苦労している。まるで、現代の、大人たちが増やした負の遺産を背負わされた若者のようである。そう思って見るとなかなか、怪談以上に震える話ではないか。
ちなみに「鳥取の布団」はトキのモデルである小泉セツの夫・小泉八雲の『知られぬ日本の面影』に収録されていて、これがこわくて悲しいお話なのだ。
