
三田紀房の起業マンガ『マネーの拳』を題材に、ダイヤモンド・オンライン編集委員の岩本有平が起業や経営について解説する連載「マネーの拳で学ぶ起業経営リアル塾」。第33回では経営者と従業員のリスクとリターンの違いについて解説する。
なんだかんだいって結局、世の中 金よ
Tシャツ専門店「T-BOX」の出店計画をめぐって口論になった、主人公で起業家の花岡拳と、幹部の日高功。
日高は花岡に「社長の指示したことだけやってろということですか」「今時そんなワンマン経営じゃ、誰もついてきませんよ」と憤るが、花岡は「ついてこれねえんなら、ついてこなくていい」と言い返し、一触即発となる
結局ほかの幹部が仲裁するかたちで後日あらためて話し合うことになったが、そもそも花岡は、「話し合い」になるのかすら懐疑的な様子を見せる。実際、T-BOXの客数は増えつつあるも売り上げはまだ伸びず、秋田の工場も生産を一時休止せざるを得ない状況に陥っていた。
そんな中、T-BOXに、秋田の工場を統括するノブこと木村ノブオが訪れる。花岡の幼なじみでもあるノブは、花岡と日高の衝突についてほかの社員から聞いて、はるばる秋田から駆けつけたのだった。
「もう少し従業員の意見聞いて、会社全体 力を合わせて難局乗り切る雰囲気作らねば…」
そう話すノブを遮り、花岡はもうかりさえすれば、皆が経営者についてくると語る。
「なんだかんだいって結局、世の中 金よ」
「世の中は金」と言い切る花岡。だがそのあと、あらためてその言葉の真意を語りだした。
商品を作り、それが売れてもうけが出れば、利益を分配することができる。会社としては設備投資や従業員の増強ができ、結果として1人あたりの労働時間も削減する。
また従業員たちも余裕が生まれ、充実した生活ができる――つまりは商売が順調で金回りが良くなれば、経営者と従業員のトラブルはほぼ解決する。だからこそ、何よりも事業を拡大しなければならないというわけだ。
経営者とともにリスクをとる「最初の仲間」が得るリターン

花岡はノブに、「会社の事業とは、新大陸発見に向かったコロンブスの船のようなもの」と続ける。新大陸が存在すると信じているのはコロンブスだけ。ほかの船員にそこまでの本気度はなく、なんならお金をもらって仕事として乗っているようなものだ。
それは事業でも同じで、そのアイデアの本質は経営者にしか分からない。だからまず信じて同じ船に乗れ、と。
花岡が語る「会社はコロンブスの船」という比喩は、経営者が背負うリスクと責任の本質を突いている。航路を決め、舵を取るのは経営者ただ一人。もし船が沈めば、責任はすべてその人に帰するわけだ。
資金繰りや債務保証、法的責任などを個人で背負うのは基本的には経営者だ。従業員が「安定」を対価に報酬を得る一方で、経営者の報酬は「不確実性」への対価であり、その非対称性こそが組織を成り立たせている。
とはいえスタートアップ・新興企業であれば、船長の号令で最初に船に乗った仲間たちには、経営者とまで行かなくとも成功報酬をともにする制度がある。それがストックオプションだ。
ストックオプション(SO)とは、企業が従業員に対して、事前に決めた価格(権利行使価格)で自社の株式を買い取れる権利を付与する制度のこと。所属企業が見事上場を果たし、さらに株価が権利行使価格を上回った場合、株式売却で大きな利益を得ることができる。
メルカリやこの10年強で上場したSaaS企業などでは、創業期に参加した従業員にSOがあてがわれた。少なくない金銭的リターンを得て、自らが経営者になる、投資家になる、大きな家を建てるなど、次の一歩に踏み出した人も少なくなかった。
あらためて、“コロンブスの船”に乗る覚悟を日高に問う花岡。日高はどんな決断をするのか。

