なぜ花田旅館の主人・平太は「ヘブン先生にイジワル」するのか?生瀬勝久が考える“わかり合えない理由”〈生瀬コメント付き・ばけばけ第42回〉『ばけばけ』第42回より 写真提供:NHK

今日の朝ドラ見た? 日常の話題のひとつに最適な朝ドラ(連続テレビ小説)に関する著書を2冊上梓し、レビューを続けて10年超えの著者による「読んだらもっと朝ドラが見たくなる」連載です。本日は、第42回(2025年11月25日放送)の「ばけばけ」レビューです。(ライター 木俣 冬)

ウグイスの名はチェア

 遊女・なみ役のさとうほなみが、「脚本家のふじきさんは『何も起きないです』と言ったけど、『どこが!? 全然起きてるけどなぁ!?』と思いながら台本を読ませてもらっています(笑)」とコメントしていた。

『ばけばけ』はいわゆる大きな歴史的な事件だとか、大きな不幸や幸運は起こらない。大きすぎたのは明治維新であって、それと比べると現況、何も起きていないといえるだろう。

 でも、さとうほなみが言うように何かが起きている。

 第42回のアヴァン(タイトルバックの前のパート)はウグイス一色だ。

 リヨ(北香那)からもらったウグイスにヘブン(トミー・バストウ)が名前をつけた。その名はチェア。「ウグイス」→「イス」→「チェア」である。ビア→サワーと同じ感じの言葉遊びだ。

 かわいいが、ウグイスらしく「ホーホケキョ」と一向に鳴く様子がない。「ノーホケキョ」とヘブン。「ホー」でなく「ノー」でこれも言葉遊び。

 本当はウグイスではないのではないかと、ウメ(野内まる)が言い出す。ウメ、鋭い。

 すると平太(生瀬勝久)がウグイスの蘊蓄(うんちく)を語りだす。やけに鳥に詳しいのは「ほんとうは鳥が飼いたい男だけん」と本心を明かすが、あいにくツル(池谷のぶえ)が鳥アレルギーだった。愛妻家だなと思ったのは一瞬、ふたりは夫婦げんかをはじめる。

 平太が、ウグイスのオスはメスよりひとまわり大きいから、チェアはオスだと主張すると、ツルが、比較対象がないにもかかわらずなぜひとまわり大きいと言えるのかと指摘、ふたりで延々、そのことに関して小競り合いを繰り広げる。

 いったい我々は何を見せられているのだろうか。

 起きたことは夫婦げんか。ほんとうにどうでもいい小さいことだった。でも、生瀬勝久と池谷のぶえが芸達者なので、場が保ってしまう。人間力。俳優力。何を言うか、ではなく、誰が言うかが大事だと痛感させられる場面だった。