マスク氏がAI追い上げ、メンフィスで数十億ドルの賭けxAIがメンフィスに建設中のデータセンター「コロッサス2」(左)、隣接するのはアマゾン・ドット・コムの施設

【メンフィス】米実業家イーロン・マスク氏にとって人工知能(AI)開発競争の中心地は、テネシー州とミシシッピ州の州境にある約46万平方メートルの草地と湿地帯だ。

 かつて静かだったこの土地は、今やマスク氏がディープサウス(米南部の保守的な地域)で築きつつある帝国の一部となっている。米歌手エルビス・プレスリーの邸宅「グレースランド」からわずか数キロの場所だ。

 マスク氏率いるAI新興企業xAIが雇った作業員らが、州境を越えたミシシッピ州側にある廃発電所で電力設備を撤去し、1ギガワット(GW)超の電力をつくる新たな発電所の建設準備を進めていた。これは約80万世帯の電力を賄える量だ。工事許可書によると、マスク氏は送電線を敷設し、州境北側のテネシー州で開発中の約9万3000平方メートルのデータセンターと新発電所を結ぶ計画だ。

 メンフィスは、マスク氏が巨費を投じて参入するAI開発競争の最前線となっている。xAIはこの地に既に巨大データセンター「コロッサス」を建設し、世界最大のスーパーコンピューターと称している。同センターは20万個超のエヌビディア製チップを備え、対話型AI「Grok(グロック)」を支える技術を動かしている。同氏は今、さらに規模の大きいデータセンター「コロッサス2」の完成に近づいている。

 AI開発競争は21世紀で最も高コストな企業間競争となりつつあり、最初にゴールに到達した企業が市場を支配するとの考えから、スピードが極めて重要になっている。資金も違いを生む。企業が保有する最先端チップが多ければ多いほど、そのモデルは賢くなる。しかし現段階では、巨額投資は報われるのか、報われるとすればいつなのかは定かでない。

 AI人材の獲得に大金を投じているテック企業は、最先端AIモデルを動かすのに必要なインフラ構築にさらに多額の資金を費やしている。モルガン・スタンレーの推計では、企業がAIインフラに投じる金額は2028年末までに3兆ドルを超える見通しだ。