
米政権が国際刑事裁判所(ICC)に対して国内資産凍結などの制裁を科すことを検討していると、英ロイター通信が報じました。そもそもICCとは、どんな組織なのか。日本政府が、ICCと一定の距離を置くべき理由とは――。(作家・元外務省主任分析官 佐藤 優、構成/石井謙一郎)
世界の価値観を一つに
ICCは理想主義の遺物?
米政権が国際刑事裁判所(ICC)に対して国内資産凍結などの制裁を科すことを検討していると、英ロイター通信が9月22日に報じました。イスラエルの戦争犯罪容疑を巡る捜査やアフガニスタンにおける米兵の戦争犯罪捜査を巡る決定に対する、事実上の報復措置となります。トランプ米大統領は今年2月、ICC関係者を制裁対象とする大統領令に署名し、すでに複数の裁判官や検察官に制裁を科しています。
そもそもICCとは、どんな組織なのか。外務省のホームページは次のように説明しています。
〈国際社会全体の関心事である最も重大な犯罪(集団殺害犯罪、人道に対する犯罪、戦争犯罪、侵略犯罪)を犯した個人の訴追・処罰を任務とする歴史上初の常設の国際刑事法廷〉
この考え方は、東西冷戦後の欧州による、世界の価値観を一つにまとめようという理想主義の遺物です。
ICCは2002年に設立され、125の国と地域が加盟していますが、国連加盟国の約6割にとどまっています。双方が合意しなければ裁判にならない国際司法裁判所(ICJ)と違い、ICCの場合は国の主権である裁判権の一部を委譲してしまうことになるため、加盟しない国が多いのです。米国、ロシア、中国、さらにイスラエルも非加盟です。
日本は07年に加盟し、最大の分担金拠出国となっています。現在、所長は日本人の赤根智子さんで、任期は24年3月から27年3月までです。