「欧州再軍備計画」に反対するこれだけの理由「彼らの戦争には1ユーロたりとも使うな」――ローマの反EUデモ(2025年3月)で群衆が掲げた横断幕。バルファキス氏は、欧州再軍備計画はウクライナ戦争勝利にはつながらないと警鐘を鳴らしている Photo:Reuters/AFLO

『父が娘に語る 美しく、深く、壮大で、とんでもなくわかりやすい経済の話。』の著者、ヤニス・バルファキス元ギリシャ財務相による連載。今回のテーマは、ウクライナ戦争を背景に進む欧州再軍備計画です。トランプ米大統領による米国第一主義が色濃くなる中、欧州は独自の道を歩むべきなのでしょうか。欧州連合(EU)の弱点と見落とされがちな「和平という選択肢」に迫ります。

 ロシアを2014年以前の国境線まで押し戻してから、ウクライナを北大西洋条約機構(NATO)に加盟させる――3年前のロシアによるウクライナ侵攻開始以来、欧州連合(EU)の指導者たちが思い描いてきた戦略目標は、これだけだった。

 残念ながら、ドナルド・トランプ米大統領の再選よりもずっと前に、この目標は画餅に帰していた。悪い兆候は、そのしばらく前から明示されていた。

 第一に、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領にとって、戦時経済は体制を維持する「天の恵み」となった。第二に、ジョー・バイデンでさえ、ウクライナのNATO加盟には終始消極的で、ウクライナを曖昧な約束でだましていた。第三に、NATO軍がウクライナ人と肩を並べて戦うという構想に対して、米国内では超党派の強い反対があった。

 こうして、驚くほど偽善的な態度が示された。「プーチンは新たなヒトラーだ」という演説があれほど相次いだにもかかわらず、「プーチンの軍隊」の打倒に向けてウクライナ側に立って参戦するという確約には至らなかった。その代わりに、西側諸国は臆病にも、疲弊するウクライナに武器を送り続け、「新たなヒトラー」を倒す役目をウクライナ単独に担わせたのだった。

 必然的に、そして火力でも兵力でもますます劣勢に立たされるウクライナ軍が勇敢に戦っているにもかかわらず、欧州指導者たちの唯一の戦略目標は、ついに灰燼(かいじん)に帰した。昨年11月の米大統領選の結果がどうであれ、その現実は否定しようがなかっただろう。トランプ米大統領は単に、ウクライナのヴォロディミル・ゼレンスキー大統領に対してだけでなくEUそのものに対する彼の長年の侮蔑を反映した残忍さで、この事態を招いたにすぎない。こうして、20年にわたる経済停滞で弱体化した欧州は、何の「プランB」も用意しないまま、トランプのウクライナ政策への対応に苦慮している。

 1938年のミュンヘン合意後、ウィンストン・チャーチルがネヴィル・チェンバレンに対してこう言い放ったのは有名な話だ。「戦争か不名誉かという選択肢を前にして、あなたは不名誉を選んだ。しかし与えられるのは戦争だ」。

 EU指導者たちは、同じ過ちの繰り返しを恐れるあまり、逆の形でそれを繰り返そうとしている。彼らは「勝利するまで戦い続ける」という道を選んでいるが、いずれは屈辱的な和平を切望するようになり、トランプ米大統領が喜々としてそれをEUとゼレンスキー政権に押しつけるだろう。

 欧州には、この難局に立ち向かうか、あるいは瓦解するかという2つの道しかないのは明らかだが、問題は「どのように立ち向かうか」だ。欧州の真の問題は何か。 EUに最も欠けているものは何か。