
「せっかく採用した人材が定着しない」「期待していたのになかなか活躍できない」といった悩みを持つ企業が少なくない。こうした人材と企業のミスマッチを、「採用面接で防ぐ」ことは可能なのだろうか。転職者2000人超を指導し、ミスマッチ転職率44.0%から9.1%に劇的に改善させた川野智己さんが、これまでの指導経験をベースに、面接でミスマッチを回避する方法をストーリー形式で紹介する。(転職定着マイスター 川野智己)
完璧だけど本音が見えない候補者……
あるコールセンターの事例からの学び
ある地方都市にあるコールセンターは、従業員をマネジメントするリーダーとなる人材を募集していた。
「……この人、本当に大丈夫なのだろうか」
人事部の佐藤武夫(仮名・40歳)は、採用面接の最中にそう感じていた。
候補者は30代半ば。大手企業での経験を武器に、自信をにじませながら受け答えをしている。
「これまでの実績は?」「志望動機は?」――全ての問いかけに淀みなく答え、笑顔も崩れない。まさしくリーダーに相応しい人物に見えた。
履歴書に書かれた経歴も立派。だが、完璧すぎて“生身の人間”の姿が見えてこない。
佐藤は違和感を拭えなかった。
面接では、求人部門の長が面接官として同席するのが常だ。
採用難であるがゆえに、会社に対して好印象を抱いてもらわなければ、候補者に逃げられてしまう。だからこそ、面接官の印象は大切だ。
しかしながら、外見や話し方などがどう考えても面接官にふさわしくない人物であっても、採用する部門の部門長を外すわけにはいかない。このような組織の論理が、採用担当者にとって悩ましいところだ。
今回の求人部門である、コールセンター部の部長、小口和夫(仮名・55歳)も、そんな「ふさわしくない人物」だ。
親会社の営業部門から左遷され、いわばこの子会社に“流されてきた人材”とうわさされている。しわだらけのスーツ姿で風采が上がらず、ぼそぼそと話す様子は決して明るい印象を与えるとは思えないからだ。
佐藤も「余計なことを言わなければ良いが……」と、内心心配すらしていた。
しかし、終盤に小口部長が放った一言が、場の空気を一変させる。