「思いをぶつけ合える」
森保監督のチームマネジメント
日本の積極果敢なプレスがブルーノのミスと動揺を誘発させ、同時に攻撃陣の潜在能力をも引き出した。そして日本の選手たちを前へ、前へと駆り出したのは勇気。さらに言えば、沈みがちだった状況で勇気を蘇らせたのは、自由闊達に思いをぶつけ合えたハーフタイムのロッカールームとなる。
カタール大会のドイツ、スペイン戦でともに同点ゴールをゲット。日本を波に乗せた堂安は、後半に逆転する展開をチーム内で「戦術カタール」と呼んでいると笑いながらこう続けている。
「ボソボソとそのへんで何か不満を漏らすより、思いをみんなでぶつけ合ったほうがいいので」
そして、上意下達になりがちな組織を風通しがよく、かつフラットな関係としているのは、就任8年目の森保一監督のチームマネジメントとなる。試合後の公式会見。全体的に腰が引けたように映った前半の戦いを「私の指示や伝え方がよくなった」と謝罪した指揮官は、真っ先に選手たちを称えている。
「厳しい試合展開のなかで、ハーフタイムには後半をどのように修正したらいいのか、冷静かつ建設的にコミュニケーションを取ってくれた。最大の勝因は力のある選手たちの存在。最後まで集中力を切らさず、粘り強く、タフに戦えるメンタリティーが今日の試合をひっくり返せた要因だと思っている」
キャプテンの遠藤航(リバプール)が音頭を取る形で、ワールドカップ優勝が森保ジャパンの合言葉になって久しい。宮本会長はブラジルからもぎ取った歴史的勝利の価値に次の補足している。
「監督は『自分たちは優勝の本命ではない。ただ、優勝を目指すだけの力がある』と常に言っている。その力を出せた時間帯を実際に全員が経験できた結果として、日本の力をもっと信じられるようになる」
6月でアジア最終予選を終えた日本は、9月から他大陸との戦いに軸を移している。もっとも、9月はメキシコとアメリカ、今月10日にはパラグアイと、来年のワールドカップ北中米大会に出場する代表チームにひとつも勝てていない。だからこそDF長友佑都(FC東京)はブラジル撃破に声を弾ませた。
「ブラジルに勝った結果は世界中に知れわたる。そのなかで『日本は本気でワールドカップ優勝を目指している』と知らしめられたんじゃないかと。絶対的な力がなければ2点差を逆転できないので」
ブラジルは守備陣を中心に、代表歴の浅い選手たちを今後へ向けたテスト的な意味合いで起用していた。こうした状況を踏まえながら、鎌田は視線を来年のワールドカップ本大会へ向けている。
「ブラジルにはクオリティーの高い選手がもっともっといるので、彼らが出ればチームはまったく変わってくる。もちろん新しい歴史を作れた場に自分もいたのはうれしいけど、僕たちはまだまだ上を目指しているので、こういった勝利を当たり前のようにしていかなきゃダメだと思っている」
今回は遠藤に加えて、ボランチでコンビを組む守田英正(スポルティング)、守備の中心を担う板倉滉(アヤックス)や冨安健洋(無所属)、攻撃の切り札の三笘薫(ブライトン)らの主軸が怪我で選外だった。ブラジル撃破は選手層の厚さだけでなく、選手個々が現在進行形で成長している証にもなる。
過去にワールドカップで優勝した8カ国のうち、森保ジャパン発足後でウルグアイ、ドイツ、スペイン、そしてブラジルと半分から勝利をあげた。来年3月にはロンドンの聖地ウェンブリー・スタジアムで、自国開催の1966年大会覇者の強豪イングランド代表との国際親善試合が予定されている。