名刺の枚数より、自分の“好き”を貫くほうが人生は豊かになる。無理なつながりより、自分の情熱に正直であることが、ほんとうの成功を呼ぶ。日韓累計40万部を突破したベストセラー『人生は「気分」が10割 最高の一日が一生続く106の習慣』(キム・ダスル著、岡崎暢子訳)では、人脈についてのエッセイが多くの人に感銘を与えている。本稿では、ライターの有山千春氏に「大切にすべき縁」についてご寄稿いただいた。(企画:ダイヤモンド社書籍編集局)

「異業種交流会に参加しまくる人」がなぜか胡散臭い理由・ワースト1Photo: Adobe Stock

「人脈を広げること」が目的となっている

 社会人1年目の新卒時代、就職活動中に出会った同業他社の知人らが集まる飲み会に、何度か出向いたことがある。

 そのメンバーの一人、ベンチャー企業に入社したAくんは、“人脈命”だった。

 異業種交流会なる飲み会に参加しては名刺を配りまくり、「ビジネスの話」(Aくん談)をして顔を覚えてもらい、そこで出会った人が誘う別の異業種交流会に出かけて――と、異業種数珠つなぎの様相を呈していた。

 口癖は、「成功の道は人脈から」だった。

 それは、彼が憧れる“ビジネス界隈”の口癖でもあった。

 それから5年ほど経ち、久しぶりにAくんから連絡があった。

 意外なことに、彼はその後会社を辞め、フリーのお笑い芸人になったという。ピン芸人日本一を決める「R-1グランプリ」の予選を見に来てほしいというのだ。

 2回戦落ちの報告のあと、Aくんと二人でささやかな打ち上げを開いた。

 Aくんは、「人脈を追い続けて疲れてしまった。自分の仕事は一体なんなのだろうとわけがわからなくなり、つまらなくなってしまった」などと、会社員を辞めた理由を教えてくれた。

 末期には名刺交換自体が目的となってしまい、交流会後に名刺の山に手をつけたのは、ほんの数回だったという。

 大手芸能事務所の方とも名刺交換していたはずだし、お笑い芸人として芸能事務所に所属しないのかと聞くと、「メールを送っても返ってこなかったし、自分のやりたいことを好き勝手やりたかったから」と話した。

 Aくんを迷宮から救い出してくれたのは、あれほど努力して広げた人脈ではなく、会社員になるときに蓋をしてしまった「お笑い芸人になりたい」という夢だったのだ。

「成功」の定義は人それぞれ

「最高の一日が一生続く106の習慣」を紹介するベストセラー『人生は「気分」が10割』には、こんなトピックがある。

「人脈を広げようとしすぎない」

 著者のキム・ダスル氏は、人脈を広げること自体を否定しているのではない。

 無理に人脈を広げようとしてあくせくすることはない。
 人脈って広げるものではなく、広がるものだ。
 そもそも、人脈を無理に広げようとすると、時間とカネはもちろんだが、余計な気まで遣うことになる。
――『人生は「気分」が10割 最高の一日が一生続く106の習慣』より

 人脈のために気乗りしない飲み会に参加し、楽しくもないのに盛り上げ、疲れ果て、仕事において本当に必要なスキルアップのための時間がおろそかになる。

 無理をすると、悪循環でしかないのだ。

 それならば「ムダな付き合いを広げることなんかより、自分の成長に集中したほうがよっぽど建設的だ」(同書)と、納得の一文が書かれている。そして実力と誠実さがあれば、「人脈は自ずとついてくるもの」(同書)というが――。

 さてその後、Aくんはどうなったのか。

 気の合うフリーのお笑い芸人と合同ライブを行い、ぽつりぽつりとファンが増えているようだった。

 さらに、会社員時代から途切れず連絡を取り合っていた数人のうちの1人から、お笑いで培った強メンタルを生かした講演会の仕事が舞い込むようになったという。

 Aくんが憧れた“ビジネス界隈”の人たちは、Aくんのその後を「成功」と捉えるのかはわからない。

 捉えてくれなくても結構だろう。

 数は少なくても太い縁を大切にしているAくんは、とてもいきいきとしていた。

(本稿は、『人生は「気分」が10割 最高の一日が一生続く106の習慣』の発売を記念したオリジナル記事です)

有山千春(ありやま・ちはる)
メーカー広報、出版社編集者を経て2012年よりフリーライターに。主に週刊誌やWEBメディアで取材記事やインタビュー記事を執筆。昨年より高田馬場の老舗バーにてお手伝い中。