世界の富裕層たちが日本を訪れる最大の目的になっている「美食」。彼らが次に向かうのは、大都市ではなく「地方」だ。いま、土地の文化と食材が融合した“ローカルガストロノミー”が、世界から熱視線を集めている。話題の書『日本人の9割は知らない 世界の富裕層は日本で何を食べているのか? ―ガストロノミーツーリズム最前線』(柏原光太郎著)から、抜粋・再編集し、日本におけるガストロノミーツーリズム最前線を解説。いま注目されているお店やエリアを紹介していきます。
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食のために旅をする世界の新富裕層
富山駅から車で一時間半。山奥にひっそりと佇む一軒のレストラン。
人口400人あまりの旧・利賀(とが)村(現・南砺(なんと)市利賀村地区)に、年間1000人以上のインバウンド(外国人観光客)が、はるばるやってきます。
「私たちは食のために旅をします」
そう語るのは、年間2000万円以上を旅のために使っているという上海の実業家。その土地ならではの食材を活用した料理を求めて、世界中を旅しています。
北九州市の工業地帯。ここにも、インバウンドを魅了する店があります。外国人客の一人は次のように語ります。
「東京、大阪、京都のレストランは行き尽くしました。北九州市にしかないものを探しに来たんです」
これらは、私もゲストとして出演したNHK『クローズアップ現代』で、ガストロノミーツーリズムが特集された際の一コマです。
実は今、このように地域特有の食文化を求めて旅をする「ガストロノミーツーリズム」が、世界の富裕層の間で流行しています。
ひと昔前は、「旅=観光名所を回ること。そのついでに美味しいものを味わう」でした。多くの人にとっては、今も変わりないでしょう。
ところが、昨今の世界の富裕層は違います。「旅=地方の美味しいレストランへ行くこと。そのついでに観光名所を回る」というように、主従が逆転しているのです。
さらに、彼らが重視しているのは、「人とは違う体験」をすること。したがって、大都市には目を向けません。いえ、もう行き尽くしたのです。
だから、人がいなければいないほどいい。行きづらい場所であればあるほど希少価値が高い。
そのような価値基準に基づき、独自の情報網を駆使して、日本人ですら知らない隠れた名店に足を運んでいるのです。
世界の富裕層は気づいています。日本の地方の魅力に。食材の豊かさに。そこで活躍するシェフの気概と技術の高さに。
日本に暮らしている私たちが、うっかり見過ごしている食の真の価値をいち早くキャッチし、味わい尽くしているのです。
地方の食にはエキサイティングな感動がある
私はこれまで、数多くの「美味しい」といわれる料理を食べてきました。もともと学生時代から食に興味があり、世界中の店をめぐっていました。
大学卒業後、文藝春秋に入社し、仕事を通じて食に触れ合う機会が増えたことで、さらに魅せられ、本当に美味しいものを追求してきました。
その経験を経て東京では絶対に味わえないものが地方にはあるということに気づき、文藝春秋を退社した現在は、地方の食の魅力を発信するべく日本全国を駆け巡っています。
そんなライフワークを送っていると、私は様々な衝撃に襲われます。
「こんなにも素晴らしい食材が、これほどクリエイティブなシェフが、こんなところに!?」
「東京と鮮度がこんなに違うなんて…」
「地元の人は、このクオリティを当たり前だと思って食べているのか!?」
東京の美味しいといわれる店、地方の名店もそれなりに訪れてきたつもりです。にもかかわらず、地方へ足を運ぶと、毎回必ず新しい衝撃に出くわすのです。
その地方にしかない食材を使った食が与えてくれる驚きと興奮。そこには、単に「美味しい」を超えたエキサイティングな感動があります。
ところが、この素晴らしさに当の日本人はほとんど気づいていません。海を越えた外国人が気づき、堪能している経験を、この列島で暮らしている日本人自身が気づかずに見過ごしている現状は、実に惜しい限りです。
そこで本書では、世界の富裕層がこぞって訪れる名店から、これから流行ること必至の注目店やエリアを厳選して紹介します。
東京23区、大阪、名古屋などの大都市のお店はあえて紹介していません。
食に興味がある方はもちろん、旅好きの方、最新情報にアンテナを張っている好奇心旺盛な方、地方で名を馳せるプロフェッショナルな人物の仕事ぶりに興味があるビジネスパーソンなど、多くの方にご満足いただける一冊になっていると自負しております。
この本を読めば、日本がもっと好きになり、地方へ足を運びたくなるに違いありません。
さぁ、食の扉を開いて、新しい自分を探しに行きましょう。
※本記事は、『日本人の9割は知らない 世界の富裕層は日本で何を食べているのか? ―ガストロノミーツーリズム最前線』(柏原光太郎著・ダイヤモンド社刊)より、抜粋・編集したものです。






