乳がんサバイバーの生活の質を左右する「リンパ浮腫」、予防法は?Photo:PIXTA

 毎年10月は、乳がんに関する啓発活動が行われる「ピンクリボン月間」だ。

 日本の女性は、一生涯に9人にひとりが乳がんに罹患すると推計される。経験者(サバイバー)が増えるにつれ、治療後の生活に関する情報へのニーズが増えてきた。

 サバイバーの生活の質を左右するものに「リンパ浮腫」がある。

 乳房から続く脇の下のリンパ節を切除する「リンパ節郭清」術などに伴うもので、リンパ液が腕の皮膚の下にたまり、肩関節から指先までがむくんだ状態になる。

 術後のみならず10年以上たって発症することもあり、いったん発症すると治癒は難しい。進行すると腕がむくんで重くなる、関節が曲げにくくなる、あるいは皮膚に水疱や潰瘍が生じるなどの症状が現れ、生活に支障が出る。

 発症を防ぐために、「術後は術側の腕に感染症を起こさない」「擦過傷に気を付ける」などと指導されるが、これがなかなか難しい。

 米ミズーリ大学の研究者は、乳がん治療後の567人を対象に、リンパ浮腫を発症した際のリスク要因を調査している。

 それによると、リンパ浮腫と有意に関連していたのは、患肢側の切り傷/引っかき傷(リスクが2.65倍)、感染症(同2.58倍)、油はね/スチームによるやけど(同2.08倍)、日焼け(同1.89倍)、虫刺され(同1.59倍)だった。また、皮膚を傷つけるリスク因子が重なるほど発症率が上昇することも示されている。

 ただし、挙げられた要因を全て避けることは不可能だ。

 研究者はリスクを抑えるために、「家事の際は手袋をはめる」「SPF30以上の日焼け止めを塗るか、長袖を着用」「虫よけスプレーを使う」のほか、「爪の甘皮を傷つけず、マニュキュアツールを消毒する」「皮膚のバリア機能を保つために保湿を心がける」などの細かい注意を呼びかけている。

 擦過傷を負ったときは石鹸と水で傷口をきれいに洗い、抗菌薬を塗るといい。傷口が熱感を持ったり、痛みを生じたりしたときは、ためらわずに医療機関を受診しよう。その際は、乳がんサバイバーであると必ず伝えること。

(取材・構成/医学ライター・井手ゆきえ)