「次の日曜日は、朝の9時くらいに出て友達の車で遠くまでドライブするそうです。うつ病の夫がそんなことができるのかとても疑問ですが、出かける時間は間違いないと思います」。これで調査日が決まりました。

 調査当日の朝、私たちは美緒さんと稔さんの自宅玄関が見える場所で配置につきました。調査の目的は、稔さんの不貞行為の現場を捉え、不貞相手の特定まで行うことです。

一人でホテルに入った対象者
本当に一人で過ごしている?

 調査開始後15分ほどして、対象者(稔さん)が自宅を出て最寄りのバス停にて市の中心部へ向かうバスに乗車しました。

 私は徒歩班として、休日で乗客が少ないバスの車内での尾行に細心の注意を払い、彼の動きを見失わないよう集中しました。

 車の尾行に備えた車班は、バスの後をピッタリ付いていきます。

 25分ほどバスに乗って稔さんは市の中心部で下車し、10分ほど歩いた歓楽街にあるコンビニに入店し、ジュースやお茶やスナック菓子を購入して、2分ほど歩いた場所にあるホテルに単身で入りました。

「対象者がホテルに入った! 入り口の向かい側にあるコインパーキングに止めてくれ」

 車班にインカム越しに伝え、美緒さんに報告しました。

 報告を聞いた美緒さんは「え!!」と言ったきり絶句していました。疑っていたとはいえ、夫のうそから裏切りを連想して傷ついているようでした。

 しかし、この時点ではまだ「不貞行為」の証拠にはなりません。ホテルの出入り口から女性と共に出てくる瞬間、女性と密会していた証拠を捉える必要があります。

 私たちは対象者が出てくるまで決して目を離しません。

 周囲の風景に溶け込み、歓楽街の人々に警戒されないよう、目立たず張り込みを続けます。

 お昼を過ぎ、夕方になっても稔さんは出てきません。カップルや男性のみ、女性のみの出入りは複数ありました。女性の誰かは稔さんの部屋に行ったかもしれません。それが不貞の相手なのか、お仕事の方なのかはわかりません。

 日が沈んで辺りが暗くなって、ネオンがつきはじめても稔さんは出てきません。もう9時間以上たっています。