勤続10年のベテランキャストだった谷口さんは笑いながら答えてくれた。

「その質問、よくゲストから聞かれることがあるんですよ。一番オーソドックスな返答としては『夢のカケラを集めています!』ですかね。で、笠原さんはなんて答えたんですか?」
「……」

 キャストへのこのような質問は観光バスのバスガイドが始めて、それがいつの間にか広まったとの説があるようだが、真偽のほどは定かではない。

 その翌日、早くも私にリベンジのチャンスが訪れた。今度は中学生と思われる3人組の女の子グループだった。ひとりがおずおずと近づいてくると、

「あの、すみません。今、何をしているんですか?」
「ええ、夢のカケラを集めています」

 彼女の表情がパッと明るくなったかと思うと、「ありがとうございます」と頭を下げて去っていった。私も彼女たちの思い出作りに協力できたかと思うと、嬉しくなった。

 修学旅行*の時期や、春休み・夏休みで地方から来園するゲストが多い時期などは1日に何回もこの質問を受けることがある。先述の中学生グループのようなリアクションが一般的だが、なかには「キャアアァァ!」という悲鳴をあげて喜びを表現する人がいたり、「すごーい!」と拍手をしながら欣喜雀躍(きんきじゃくやく、大喜びすること)する人がいたりする。

 過剰に周囲の注目を集めることになり、たいへん恥ずかしい。リアクションが激しいのは若い女性グループの場合が多く、それらしきゲストが近づいてきたとき、質問されるのを回避するために進行方向を変えてやりすごしたことが少なからずあった。

 とはいえ、ゲストの反応が薄いと寂しい。「そうですか」とだけ言って立ち去られたりすると、忙しいときにわざわざなんで聞いてきたんだよ、などと思ってしまう。

 なかには、オーソドックスな返答をすると、「なんだ、またその答えか」とか、「集めてどうするんですか?」などとツッコミを入れてくるゲストもたまにいる。