同僚のキャストにはオリジナルな返答を得意とする人もいた。谷口さんは「ピーターパン空の旅」の前で聞かれたときには「ピーターパンが振りまいた落ち葉を集めています」というように場所や時期などによって臨機応変に回答を変えるのだという。

 このようにキャストによって答えが変わったりすることも広く知られるようになったため、手あたり次第カストーディアルキャストに聞きまくるゲストもいる。

あるとき女子高校生に
「愛ってなんですか?」と聞かれた

「キャアアァァ !」東京ディズニーで女子中学生が悲鳴!「何してるんですか?」へのスタッフの“神回答”笠原一郎『ディズニーキャストざわざわ日記』(三五館シンシャ)

 私はといえば、谷口さんのような返答はやはり恥ずかしく、もっともオーソドックスなものに少しだけアレンジを加えて、「幸せのカケラを集めています」をもっぱら使っていた。ゲストからの受けはまずまずだったように思う。

 あるとき、「イッツ・ア・スモールワールド」の前でスイーピングしていると、ワイワイ言いながら数名の女子高校生が近寄ってきた。いつもの質問が来るなと「幸せのカケラ」を準備していたら、そのうちのひとりから突然、「愛ってなんですか?」と聞かれた。

 一瞬焦ったが、とっさに「愛とは決して後悔しないこと*」と答えた。

 彼女は「深い!」とだけ言い残して去っていった。
 
 そもそも質問の意図はなんだったのか、いまだによくわからない。

スイーピング
ダストパン(チリトリ)とトイブルーム(ホウキ)を使って行なう掃き掃除。作業するキャストをスイーパーと呼ぶ。技量により段位があり、私は平均的な三段だった。三段の上には「名人」や「師範」の称号があるが、三段になれば一応カストーディアルキャストとしては合格で、その上を目指す同僚は少なかった。「名人」「師範」は自分専用のトイブルームを持つことができる。名人のスイーピングはさすがに華麗で、ゲストの注目を集めていた。
ポップコーン
パークと映画館といえばこれ。年々、味のバリエーションも増えている。強風の日に散らばると文字どおり飛散(悲惨)なことになる。キャラメル味がポピュラーな人気を誇り、人気のポップコーンバケットはすぐに品切れになることも。原価から考えるとオリエンタルランドの利益に相当貢献しているはずである。
修学旅行
全国津々浦々から訪れる。「どこから来たの?」と聞くと会話が広がる。地方から来た純朴な学生と話すと心が洗われる。私の出身地・山口から来たと聞き嬉しくなり、「ぶち(とても)楽しんぢょる?(楽しんでいる?)」と聞いた。華麗にスルーされた。それ以降、方言を使うのはやめた。
愛とは決して後悔しないこと
1970年のアメリカ映画「ある愛の詩」で、白血病の女子大生ジェニーが恋人オリバーに残したセリフ。雪景色のセントラルパークとフランシス・レイによる哀切を帯びたテーマ曲が印象的だった。ストーリーは単純ながら、私の中では記憶に残る映画のひとつである。