「経営学の父」と呼ばれるのは誰か、あなたは即答できますか?
その名は――ピーター・ドラッカー。
彼が残した言葉は、時代を越えて世界中の経営者やビジネスパーソンの指針となっています。なぜ没後20年近く経った今も、ドラッカーは読み継がれ続けるのか。
『かの光源氏がドラッカーをお読みになり、マネジメントをなさったら』の著者である吉田麻子氏に、現代にこそ響くドラッカーのメッセージを伺いました。(構成/ダイヤモンド社書籍編集局 吉田瑞希)
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“働く女性”にドラッカーが人気のわけ
――吉田さんの著書『かの光源氏がドラッカーをお読みになり、マネジメントをなさったら』では、平安時代でドラッカーの読書会を開くという異色の設定ですね。吉田さんはご自身でもドラッカー読書会を開いていて、最近は女性の参加者が多いとのことでしたが、ドラッカーの思想は「働く女性」にどんなヒントを与えてくれると思いますか?
吉田麻子(以下、吉田):ドラッカーは「マネジメントの父」と呼ばれていますが、彼が説いた「人の強みを生かす」という考え方には“母性”があると思います。
厳しい競争社会を生き抜くための方法論ではなく、人をよく見て、理解し、信じる――そんな優しさに根ざしているように感じるのです。
たとえば、従来の教育では「お前のここがだめだ」「弱点を克服せよ」と指摘されることが多いですが、ドラッカーのマネジメントはまったく逆です。
「この人には、こんな個性がある」
「もしかすると、それは強みの原石かもしれない」
そうしたまなざしで人を見ていく。
それは結果だけを見るのではなく、日々の仕事のプロセスや、普段のちょっとした行動の中にその人の資質を見いだす、とても繊細で観察的な姿勢です。そして、実はこの繊細さこそ、女性が本能的に得意とする領域ではないでしょうか。
日常のやりとりにも「マネジメント」が詰まっている
吉田:たとえば、こんな会話があります。
「ここのポケットからものが落ちちゃわないように、自分でつけてみたの」
「さすが!そういう細かい工夫ができるところ、いつも尊敬しちゃうよ」
「あなたこそ、さっき貸してくれたハンドクリーム、すごくいいね」
「でしょでしょ。今年の新作なんだけど、新しい成分が入っていてね」
「ほんと、情報通だよね。そういうとこすごいと思うよ」
これって単なるおしゃべりのようでいて、お互いの細やかな行為の中から「強み」を見つけ出している瞬間ですよね。
女性同士のこうした日常のやりとりの中には、すでにマネジメントのエッセンスがたくさん詰まっていると思うのです。
普段の女性ならではの感性が、いま目の前にある組織や仕事の中でどう生かせるのかという視点でドラッカーを学ぶと、「人を見る目」「育てる感性」といったものが、すでに自分の中に内在していることに気づくはずです。
そして、何気ない会話や観察をもう一歩深めることで、部下の育成やチームマネジメントにどのように生かせるのかを、体系的に理解するステージに進むことができるのではないでしょうか。



