「経営学の父」と呼ばれるのは誰か、あなたは即答できますか?
その名は――ピーター・ドラッカー。
彼が残した言葉は、時代を越えて世界中の経営者やビジネスパーソンの指針となっています。なぜ没後20年近く経った今も、ドラッカーは読み継がれ続けるのか。
『かの光源氏がドラッカーをお読みになり、マネジメントをなさったら』の著者である吉田麻子氏に、現代にこそ響くドラッカーのメッセージを伺いました。(構成/ダイヤモンド社書籍編集局 吉田瑞希)
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リーダーを目指す女性に必要なもの
――吉田さんが主宰するドラッカー読書会では、働く女性の参加が増えてきたと伺いました。リーダーや管理職を目指す女性にとって、ドラッカーの「リーダーシップ論」から学べる最も大切なエッセンスは何でしょうか?
吉田麻子(以下、吉田):朝、ヘアメイクを終えて鏡の中の自分を見たとき――そこに、見たい自分がいるかどうか。
女性にとって鏡の中の自分を見つめるときに思うことはいろいろあります。肌の調子やメイクの出来栄えなどビジネスアワーが始まる前に確認することはもちろん、そこにもう一つ確認したい自分の姿があります。
ドラッカーは『非営利組織の経営』の中で、こう語っています。
「あらゆる行動において、翌朝鏡の中に見たい自分であるかを問うことを習慣化しなければならない。」
この言葉の直前には、
「リーダーシップとは模範になることである。リーダーは目立ち、組織を代表する」
「リーダーは模範たるべき者である。期待に応えるべき者である」
と書かれています。
つまり、リーダーシップとは役職ではなく、「日々の自分のあり方」のこと。メイクを終えた後に鏡を見つめる一瞬こそ、“いまの自分は本当に誇れる自分か”を確認する時間なのです。
では、ドラッカーは具体的にどのようなリーダーシップを説いているのでしょうか。
『現代の経営』には、次のような一節があります。
「リーダーシップとは、人の視線を高め、成果の基準を上げ、通常の制約を超えさせるものである。リーダーシップの素地として、行動と責任についての厳格な原則、高い成果の基準、人と仕事に対する敬意を、日常の仕事において確認するという組織の文化に優るものはない」
リーダーとは、部下に指示する人ではなく、人の視線を上げ、可能性を引き出す存在。
組織にはミッションがあり、顧客があり、顧客にとっての価値があります。リーダーの仕事は、その価値を生み出すために焦点を合わせ、資源を集中させ、日々の小さな行動の中で“なすべきこと”を明確にしていくことです。
リーダーになるための重要な要素とは
吉田:また、ドラッカーは『非営利組織の経営』でこうも語っています。
「リーダーシップとは行動である。思索にとどまってはならない。それはカリスマでもない。演技でもない。行動である。行動とは、ミッションを書き換え、焦点を合わせ直し、そのうえに新しいものを築き、組織することである。そして廃棄することである」
「感覚を研ぎすまし、焦点を合わせ直し、決して満足しないことがリーダーとしての行動規範である」
つまり、リーダーシップとは「理念を語ること」ではなく、「動くこと」。
そして“捨てる勇気”をも含めた継続的な選択の積み重ねなのです。
さらにドラッカーは、リーダーがしなければならない最も重要なこととして、こう述べています。
「自分ではなく仕事を中心に据えることである」
女性リーダーにとって、この言葉はとても大切です。日常の中で、周囲への気づかいや感情の共感が豊かな女性ほど、ときに“自分の想い”を中心に考えてしまうことがあります。
けれど、「自分ではなく、仕事を中心に据える」ことで、感情ではなく使命に焦点を合わせる思考習慣が育っていきます。
最初は少しむずかしく感じるかもしれません。けれど、いつの間にかそれは「姿勢」として身につきます。
リーダーシップとは、カリスマ性でも、特別なスキルでもなく、日々の小さな選択の中で“誇れる自分”を積み重ねていく姿勢のこと。
朝、鏡の中をのぞいたとき――そこに、自分の仕事を誇る表情が映っていたら、すでにあなたの中に、ドラッカーのいう「リーダーシップ」は芽生えているのだと思います。








